2025.07.02
ヒトの細胞などを用いる再生医療等製品は、製品の均質性が担保できず、希少疾患に用いる場合には症例がなかなか集まらないことから、実用化までに時間がかかるとされてきました。厚生労働省は、こうした課題に対処するため、安全性が確認され、有効性が推定された再生医療等製品について、市販後の一定期間内に有効性を立証して本承認するという、条件及び期限付き承認制度を創設し、早期の患者アクセスを実現しました。
この制度は、最先端の治療を待ち望む患者が、早期に当該治療の保険適用を受けられるというメリットがある反面、製品特性から単価が高額になりがちで、製品としての有効性を示せなければ、公的保険財政にダメージを与えてしまう事にもなりかねないというデメリットも内包しています。
●有効性示せなかった事例など相次ぐ
現時点では、メリットよりもデメリットが目立っている気がします。有効性が示せなかったことなどを理由に、重度慢性動脈閉塞症治療に用いる「コラテジェン」と、重症心不全治療に用いる「ハートシート」の公定価格(前者は薬価、後者は特定保険医療材料価格)が削除されました。これを受けて厚労省は、「再生医療等製品に係る条件及び期限付承認並びにその後の有効性評価計画策定に関するガイダンス」を発出し、保険適用認定の際に用いる一般的なルールを定めるべく、次期診療報酬改定に向けて、議論を深める方向性を示しています。
●条件及び期限付承認段階の保険償還 政府は「保険外併用療養費制度の拡大」を提案
政府も、有効性の評価が十分ではない再生医療等製品について、「国民皆保険の堅持とイノベーションの推進を両立させつつ、希望する患者が保険診療の対象となるまで待つことなく利用できるよう、保険診療と保険外診療の併用を認める保険外併用療養費制度の対象範囲を拡大する」との文書を閣議決定しました。
つまり、保険診療で全てをカバーするのではなく、患者にも追加負担してもらう考えを打ち出しているのです。閣議決定された文書では、患者の負担軽減及び円滑なアクセス確保の観点から「公的保険を補完する民間保険の開発を推進していく」とも明記しました。
確かに有効性が確立していない最先端の再生医療等製品を、すべて医療保険財政でカバーするのは厳しいかもしれませんが、現行の保険制度では治療法のない疾患を抱え、かつ自助努力だけでは如何ともしがたい患者にとって、最先端の医療の保険適用は希望の光です。私は仮に自分の保険料負担が増えたとしても、最大限、皆で支える仕組みが必要だと感じます。メーカーサイドも、有効性が推定される段階から保険適用の恩恵に与えるわけなので、何か負担を分かち合うような業界提案を期待したいものです。仮承認の価格はそれなりで、有効性を立証した本承認の価格を大幅に引き上げるといった工夫も、一考ではないでしょうか。
●予期せぬ安全性の問題発生は、再生医療等製品に限らない
先月には、条件及び期限付承認制度で、向かい風となりかねない事例が新たに発生しました。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に用いる再生医療等製品「エレビジス」について、製造販売元のメーカーが、国内では治療対象外であるものの、海外で死亡事例が報告されたことを公表しました。厚労省の審議会も、保険適用の議論を一時中断し、安全性の確認を最優先することを決めました。「エレビジス」は、一足先に承認された米国での価格は
約4億8000万円(1ドル150円換算)となっていることから、国内での保険償還価格も過去最高となることが想定され、注目を集めていました。
安全性が担保された再生医療等製品であることが、保険適用の大前提であることは間違いありませんので、保険適用の審議ストップは妥当な判断だと言えます。ただ保険適用された医薬品、医療機器でも、市販後に予期せぬ有害事象や不具合が発生するケースはままあることなので、治療法のない患者の希望の光を灯し続ける意味からも、再生医療等製品の条件及び期限付承認制度に、ブレーキを踏むことがあってはならないと考えています。
【MEジャーナル 半田 良太】