2025.06.02
米トランプ政権が打ち出した相互関税の影響が、世界各国に大きな負のインパクトを及ぼしかねないと危惧されています。現在は各国との交渉が続いており、着地点がまだ見えておりませんが、少なからず医療機器業界にもその影響が及ぶでしょう。経済産業省が中心となり、医療機器の業界団体や、メーカー6社からヒアリングしたところ、米系の企業を含めて、製造コストや患者負担が増すだけで「誰一人として得をしない」との見方が大勢を占めます。
●従来の“ゼロゼロ関税”への回帰を
これまで日米両国間には、医療機器についての関税は存在しない、いわゆる“ゼロゼロ関税”状態が続いていました。しかし米国はトランプ氏が大統領に返り咲いたことで、“アメリカファースト”を掲げた保護主義政策を推進しています。4月5日から一律10%が課せられることとなり、その後、24%分の関税を引き上げる方針を示していました。ただ24%分の関税は、9日から90日間猶予(停止)されており、その間、トランプ大統領が得意とする“ディール(取引)外交”が進行しています。
●生命関連の医療機器 関税は安定供給面の懸念に
経済産業省は4月23日と28日、日本の医療機器業界団体、在京、在阪の医療機器メーカー6社と意見交換し、関税の影響についてヒアリングしました。在阪メーカーとの意見交換に出席した経産省の政務三役は、「医療機器は患者の生命に関わり、今般の関税措置は安定供給を損ね得る」と懸念し、「米国に対して、措置の見直しを強く求めていく」と不退転の決意を示しました。医療機器産業界からの意見を聞いたうえで、“ゼロゼロ関税”への回帰が望ましいという構えを見せています。
●米国の団体「も」、「関税に後ろ向き」のステートメント
実は医療機器への関税について、米国の団体も懸念を表明しています。米国に本部を置く先進医療技術工業会(AdvaMed)は4月に相次いでプレスリリース(仮訳)を出しています。初発のリリースでは、「医療機器産業はこれらの関税の対象から除外されるべき」とのスタンスを明確にしました。その後、(1)イノベーションに悪影響を与える(2)医療コスト増とサプライチェーンの混乱を与えるなどとして、トランプ政権に翻意を促すようなスタンスを示しています。
●覇権を握る米系メーカーにとってもデメリット
医療機器は、自動車などと異なり、米系の医療機器メーカーが覇権を握っているといっても過言ではありません。そんな米系の医療機器メーカーでも、本国アメリカにだけに生産拠点があるわけでなく、関税によるコスト増が避けられません。
関税の影響を避けるため、製造拠点を米国に回帰させることになれば、米国にとって雇用面での貢献はあるかもしれませんが、コスト増に伴う企業収益の悪化、仮に価格転嫁した場合の患者負担増に直面することになります。米国にとっても、関税を課すことのデメリットが、メリットを凌駕するという事を意味しているのではないでしょうか。
●イノベーションで日本の医療機器産業の発展目指すべき
米国は医療イノベーション発祥の地で、人口も増加傾向を示しているため、関税の有無で市場としての魅力度が揺らぐことはないでしょう。
患者の命を救うために不可欠な付加価値の高い医療機器については、関税の影響があっても使用をやめるという判断にはなりにくいと考えます。むしろ影響を受けるのは、差別化が困難な汎用品という事が考えられます。もしかすると、円安で人件費を含めた製造コストが下がっている日本で汎用品を生産すれば、高関税が懸念される中国企業からシェアを奪う好機になるかもしれません
とはいえ日本政府がイノベーションを加速させ、日本の医療機器産業を発展させるというスタンスを明確に打ち出している以上、汎用品のコストダウンによる恩恵を追求するというよりも、イノベーティブで付加価値の高い製品開発を促すことで、日本の医療機器産業を発展させることが、「王道」といえるのではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】