
2026.02.02
特定保険医療材料(特材)の販売価格が保険償還価格を上回る、いわゆる逆ザヤ問題への対策が出そろいました。特材は、同じような機能を果たす製品をまとめて、1つの保険償還価格を設定する「機能区分制度」で評価されていますが、次の診療報酬改定では、「機能区分内で市場シェアが分散しているケース」で逆ザヤが生じていれば、保険償還価格が引き上げられることが大筋で決まりました。つまり、(1)つの機能区分内で市場シェアの独占もしくは寡占がないこと、(2)同じ機能区分で評価される全ての特材が逆ザヤに陥っていること、の二つが、保険償還価格引き上げの条件となります。
●3つに1つの機能区分が逆ザヤに
厚生労働省が実施した令和7年の特材価格調査によると、1314機能区分のうち、460機能区分で、逆ザヤが生じていることが明らかになりました。つまり、460機能区分の中にあるすべての特材が、逆ザヤ状態で販売されているという事を意味します。割合でみると、全ての機能区分のうち35%が逆ザヤ状態になっています。機能区分の中には、複数の特材がひしめき合っているので、逆ザヤの特材の数は膨大なものになると想像されます。
逆ザヤの機能区分の割合は、平成30年「22%」→令和元年「23%」→令和3年「26%」→令和5年「31%」→令和7年「35」と、増加トレンドです。とくに多く手術を行う急性期病院にとっては、特材を購入すればするほど赤字が増えるので、経営の悪化に拍車がかかります。公定価格の信頼性が問われる事態といっても過言ではありません。逆ザヤに対してどういった手を打つか、今回の診療報酬改定のトピックの一つとなっていました。
●シェア独占、寡占の機能区分の逆ザヤ対応 メーカー側からの申請が不可欠
先に触れたように、「機能区分内で市場シェアが分散しているケース」で逆ザヤが生じていれば、保険償還価格を引き上げることが決まりましたが、それでは1社で機能区分のシェアの大半を握っている“独占”、上位2社でシェアの大半(現時点では半数以上)を占める“寡占”となっている機能区分の逆ザヤ対応はどうするのでしょうか。
厚労省は、独占、寡占の機能区分について、「供給側(医療機器メーカー)の価格決定力が強い」として、「(シェアが分散しているケースのように)保険償還価格を引き上げることは困難」と結論付けました。そのうえで、一定の条件をクリアした独占、寡占の機能区分について、医療機器メーカーが厚労省に、供給が著しく困難で十分償還されていない特材の保険償還価格の引き上げを求めることのできる「不採算品再算定」で対応するとしました。
●3つの条件クリアもハードルに
ただ不採算品再算定には厳格なルールがあります。(1)代替するものがない(2)学会から医療上の必要性があり継続供給要請があるもの(3)継続的な安定供給に際して材料価格が著しく低いこと、の3条件をクリアすることが求められます。そのうえ、医療機器メーカーが「不採算品再算定で、保険償還価格を引き上げてください」と申請しなければ検討されませんし、申請すれば必ず、保険償還価格が引き上げられるわけでもありません。
●大半のシェア握るメーカー「言い値で売れるため、申請しないのでは」との懸念燻る
厚労省の審議会では、医療機関側の委員から、独占、寡占の機能区分の逆ザヤ対応について、「企業側がしっかりと不採算品再算定を申請していただき、逆ザヤ解消に取り組んでいただければよいが……」「企業は言い値で売る以上は不採算とならず、結局は逆ザヤが解消されないという懸念がある」といった強い懸念が示されました。
●保険制度をどうするか、国民的な議論が必要な時期に
そもそも公的保険の中で、対象となるすべての特材が保険償還価格よりも高い価格で販売されている機能区分の約3分の1で、逆ザヤが発生していることは異常事態です。経済がデフレからインフレに移行したため、現行制度がそれに追いついていないことが主因でしょう。
厚労省も、医療保険財源が限られている中、最大限の知恵を絞った結果が今回の対応だと理解しており、私自身、汗をかいた実務担当者の顔が浮かぶこともあり、頭の下がる思いをしています。ただ、それでも逆ザヤが解消されなければ、それを購入・使用しなければならない医療機関、そして医療機器メーカーと、医療機関の間に挟まれた、比較的立場が弱いとされる販売業者にしわ寄せがいくことは間違いありません。
逆ザヤの解消を含め、現行の医療保険制度を維持したいのであれば、どこかに追加財源を求めなければならないでしょう。もしくは現在の窓口・保険料負担などを維持したうえで、保険サービスの範囲を縮小することも選択肢のひとつかもしれませんし、保険外併用療養費制度のさらなる活用なども検討の余地があるかもしれません。いずれにせよ、現状に眼をそむけたまま無理を続けると、いずれ「病院がなくなる」といった非常事態が起こっても、なんら不思議ではありません。医療保険制度をどうするか。国民的な議論は待ったなしです。
【MEジャーナル 半田 良太】