
2026.01.05
「国民の生活に欠かせない医療機器の中でも、とくに生命維持管理に必要な医療機器が不足した場合、人命に著しい影響を及ぼす可能性がある―」。こうしたことを背景に、政府は12月19日の閣議で、経済安全保障推進法の特定重要物資に「人工呼吸器」を追加することに決めました。肺炎などの感染症治療や、手術時の感染予防にとって大切な抗菌薬が、人工呼吸器に先駆けて特定重要物資の指定を受けており、医療関連では2番目の指定を受けることになりました。
●安全保障のすそ野が「経済分野まで拡大」
国際情勢が複雑化し、社会経済構造の変化によって、安全保障の裾野が経済分野に急速に拡大しています。経済安全保障推進法は、そうした環境変化を受け、国家・国民の安全を経済面から確保するための取組を強化・推進するため、2022年5月に成立しました。国民の生存に必要不可欠で、生活・経済活動が依拠している重要物資を「特定重要物資」として指定し、安定供給確保に取り組む民間事業者などを支援し、サプライチェーンの強靱化を図ります。全体の基本方針として、(1)重要物資の安定的な供給の確保(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保(3)先端的な重要技術の開発支援(4)特許出願の非公開という、4つの制度を創設しています。
●法律成立から3年半で16品目を特定重要物資に指定
政府は法律の成立からこれまで、「抗菌性物質製剤(抗菌薬)」「肥料」「永久磁石」「工作機械・産業用ロボット」「航空機の部品」「半導体」「蓄電池」「クラウドプログラム」「天然ガス」「重要鉱物及び船舶の部品」「先端電子部品」の12品目を特定重要物資に指定してきました。今回、「人工呼吸器」「無人航空機」「人工衛星」「ロケットの部品」を追加し、法律成立から約3年半で、計16品目が指定されたことになります。
●コロナパンデミック時の人工呼吸器不足
2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックで、世界的に「人工呼吸器」が不足し、“取り合い”になったことは記憶に新しいと思います。国内でも増産に次ぐ増産が必要となり、自動車業界の力添えで生産台数を急増させ、急場をしのぎました。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とならぬよう、厚生労働省は、国内外の数多くの機器・部材メーカーを巻き込む複雑なサプライチェーンを通して製造・供給されている医療機器について、安定供給上の構造的な課題・リスクを予め特定することから始めて、有事の際にも医療機器の安定供給を実現するための施策の検討に着手しました。国民の生命維持に著しい影響を及ぼす可能性が高い「人工呼吸器」「体外式膜型人工肺(ECMO)」「透析関連装置」「持続緩徐式血液濾過透析(CHDF)」の4製品と、それらに必要な「消耗品」について、サプライチェーンの実態把握に乗り出し、部品や原材料の調達先の複数化や備蓄といった対策の必要性を取りまとめました。
●日本の強みを磨くことも対策のひとつに
今回「人工呼吸器」が特定重要物資に指定されましたが、それ以外にも前述の調査対象となった透析機器やダイアライザーなど、製品供給が途絶えれば、患者の命に直結する医療機器は数多くあるといっても過言ではありません。特定重要物資に指定されるかどうかは別に、必要な医療機器を安定供給することは大変意義深いことだと改めて痛感しました。
とくに治療に必要な医療機器については、海外に依存しているものも少なくありません。そうした医療機器の国産化や、国内で備蓄を進めることも重要ですが、いまさら海外企業がシェアを寡占している市場に打って出ることはコスト面などを含め「上策」とは言えません。そうした決断をする医療機器メーカーが存在するかも疑問です。
世界的にブロック経済が進み、自国第一主義を標榜する大国が存在する中、日本は、海外に依存している分野があるという弱みを認め、それをカバーする方策を進めつつ、世界から求められる強みのある分野に磨きをかけることで、有事の際、そうした製品を融通し合えるような枠組みを検討する道を、あわせて探るべきと感じました。
【MEジャーナル 半田 良太】