
2026.09.01
特定保険医療材料(特材)の保険償還価格が、医療機関への販売価格を下回る、いわゆる逆ザヤ取引が後を絶ちません。医療保険制度について審議する、中央社会保険医療協議会(中医協)では、2026年度改定の一環として、逆ザヤになっている45機能区分の価格を引き上げる「不採算品再算定」を適用しました。ただ、厚生労働省が実施した25年の調査によると、全1314機能区分のうち、逆ザヤが生じているのは460区分だったため、単純計算で、是正できたのは全体の1割にとどまります。特材は、機能が似た複数の製品を、1つの機能区分にまとめて保険償還価格を設定するので、実際に逆ザヤが生じている特材は、1000品目に迫るか、それ以上になっていると想定されます。こうした問題を放置することは、ただでさえ厳しい経営状況に直面している医療機関の経営をさらに圧迫することにつながりかねません。
●異例の“改定直後からの再議論”
中医協で特材の制度を審議するのは、診療報酬改定から1年が経過してからがほとんどです。つまり、例年であれば、診療報酬改定のあった26年ではなく、27年に入ってから審議するのですが、今回は、6月1日の改定から、わずか1か月後というスケジュールが採られました。
この背景には、2026年度改定にあたって「市場実勢価格(医療機関への販売価格=筆者加筆)が償還価格を上回る機能区分が生じる要因の把握等を行う」という、28年度改定に向けた“申し送り事項”があったためです。26年度改定では、逆ザヤに対する当面の対応を講じ、28年度改定に向けて、詳細な要因の分析と抜本的な対応策を、腰を据えて検討する、中医協(もしくは事務局を務める厚労省)としての、強い意思表示とみて間違いはないでしょう。
●逆ザヤの要因分析へ、今秋に関係者からヒアリングに着手
厚労省は、7月の会合で、逆ザヤがなぜ生じるのかを徹底的に調べる方針を示しました。具体的には、今秋にも、医療機器業界(製造販売業者、医療機器販売業者)へのヒアリングを実施し、逆ザヤが生じる特材の特性や、販売価格を引き上げざるを得ない要因について聞き取ります。取引当事者間による「価格形成のメカニズム」についても把握するほか、費用構造の開示の可能性も探るとしています。
逆ザヤを解消するため、「不採算品再算定」の在り方についてもヒアリング対象とします。「不採算品再算定」は、まず企業側が“手上げ”しなければ適用されることはありません。手上げしない理由が、単に再算定の申請基準(①代替するものがない②関係学会から医療上の必要性の観点から継続供給要請があるもの③継続的な安定供給に際して材料価格が著しく低いこと)を満たせないからなのか、企業側の“言い値”で販売できるような、独占・寡占状態にあるためなのかという実態を、ヒアリングを通じて見極めたうえで、必要な方策を打ち出していくことになるでしょう。
●逆ザヤの2年間放置は適正か?
逆ザヤ対策を審議した会議では、このような厚労省の方針に対して、出席した医療機関、保険者、医療機器業界の関係者から、全会一致での賛同を取り付けました。ただ気になるのは、最短でも逆ザヤの解消を28年6月まで、つまり2年先まで待たなければならないことが決まった点です。
消費者が購入するモノやサービスの価格変動を示す「消費者物価指数」(2020年を100とした時の指数)は、22年から毎年、2~3%増加していることが確認されています。国内で企業同士が取引する価格水準を示す「国内企業物価指数」も、過去5年間で26.7%増となっています。こうしたインフレが続く4~5年の間、企業側は食料品などの値上げを断続的に続けているのです。ある企業が発表したニュースを調べたところ、25年までの5年間で計5回以上の値上げ(1回あたり最大15%の値上げ)を実施している商品があることが確認できました。
もちろん、食料品と特材を同列に並べるわけにはまいりませんが、企業側は物価・賃金上昇、原材料価格の高騰に(消費者の買い控えが起きないよう気を配りながらも)、毎年1回は値上げして手当しています。翻って特材はどうでしょう。「不採算品再算定」は、2年に1回の頻度でしか実施されず、直近では、逆ザヤが生じているうちの1割にしか適用されていないのです。
少子高齢化の中で、国民皆保険を維持する必要性は理解できますが、日本経済がデフレからインフレに転換した中で、特材の逆ザヤ解消の頻度や、その是正範囲は適正だと言えるでしょうか。インフレが進む中、逆ザヤに迅速かつ十分に対応しなければ、特材を提供する企業側が、利益が出ないことを理由として、最新の特材の国内導入や、供給をストップする可能性すら否定できません。もしくは、逆ザヤが購入側である医療機関の経営にダメージを与え続けることで、病院全体や、診療科の統廃合といったケースにつながらないとも言い切れないでしょう。国民・患者を含めたすべてのステークホルダーが、負担を分かち合うことで、逆ザヤを解消することも“止む無し”だと思いますが、皆さんはどう考えますか。
【MEジャーナル 半田 良太】