
2026.08.03
高市政権肝いりの「日本成長戦略」が7月21日に閣議決定されました。「『強い経済』の構築による、強く豊かな日本列島の実現」に向けて、戦略17分野を選定し、62の主要な製品・技術等を列挙しました。戦略17分野のひとつが「創薬・先端医療」で、このうち医療機器分野には、2040年度までに官民合計で11兆6000億円を投じます。官民投資、研究開発環境の整備などが実行された暁には、グローバル市場で、24年比2.8倍の28兆円の売上を、日本の医療機器メーカーが獲得するという絵姿を描いています。
●半導体、クラウド・データセンターなどに次ぐ「創薬・先端医療」の投資額
成長戦略全体の官民投資額は2040年度までの15年間で「累計370兆円超」です。今をときめく「AI(人工知能)・半導体」には累計100兆円超、クラウド・データセンター、電気自動車などに搭載する蓄電池などには30兆円超を想定する中、「創薬・先端医療」には、累計で60兆円を超える官民投資を想定するなど、「創薬・先端医療」はAIなどと並ぶ成長戦略の柱のひとつに位置付けられました。「創薬・先端医療」のうち、医療機器には、「革新的デバイス(AI、ロボティクス等)を活用した先端医療」として11兆円超を投じる計画で、飛躍的な成長が期待されています。
●機器の成長のカギは「AI」
では「革新的デバイスを活用した先端医療」の内容を見ていきます。日本には、質の高い医療データや、高度なモノづくり力を持つ企業が存在するという基盤があるため、これらを活かすことが大前提となります。こうした基盤に、近年進化が著しいAIを組み合わせることで、景気に左右されず年平均6%超の安定成長を続ける医療機器市場で、成長の果実を得ることを狙います。
現時点で、国内企業が一定のプレゼンスを示す診断機器分野については、AI技術を取り込むことで、さらなる競争力を得ることができると目論んでいます。さらに、革新的な医療機器を生み出すオープンイノベーションコア拠点を強化することで、新興国を含めた世界市場の獲得を目指すとしており、いわゆる“攻めの姿勢”を鮮明に打ち出しました。
一方、輸入超過となっている治療機器分野については、“キャッチアップ”を目指す内容となっています。例えば、米国企業などが独走する、手術支援ロボットなどのハードウェアについては、「AI×質の高い手技データ」の蓄積が手術の質を底上げするプラットフォームになりうると言及しています。がんの病変をピンポイントで治療できる、低侵襲医療として期待を集める粒子線治療などにも触れ、AIによる精緻な機器制御と組み合わせることで、「これまで治療法がなかった疾患を治療できるデバイスが開発されつつある」などとし、「AIによる医療機器技術のパラダイムシフトを好機ととらえ、世界市場の獲得を目指す」との方針を示しました。
●治療機器は「経済安全保障」の観点も加味
今回の成長戦略は、医療機器市場が年平均6%超の安定成長を続けているという“経済的なポテンシャル”だけに着目しているわけではありません。
コロナ禍で、人工呼吸器の確保に追われたことなどを念頭に、“経済安全保障”の観点も加味したものになっています。具体的な問題意識として、心臓や肺、腎臓などの機能を代替する、「国民の生命に直結するデバイス」について、サプライチェーンを含めて安定供給を確保するために、官民投資を手厚くするとのメッセージも発信しています。
●「未来への投資不足」を解消する政府 機器メーカーに求められる覚悟
政府は、成長戦略とともに、いわゆる骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2026)も閣議決定しました。つまり成長戦略と、翌年度の経済・財政運営の指針となる、骨太の方針を密接にリンクさせていることも、ポイントです。
閣議決定された骨太の方針2026をみると、長年にわたる「未来への投資不足」を問題視し、来年度予算を「責任ある積極財政元年」と位置付けています。具体的には、危機管理投資・成長投資のための『「強く豊かな日本」投資枠』を創設します。これらの投資枠については、予算要求に上限を設けず、複数年度にわたって必要な額を適切に要求できるようにする仕組みを新設しました。
高市総理は、自身が手掛ける初の骨太の方針で、内外から賛否がありながらも、「責任ある積極財政元年」を打ち出し、従来の緊縮財政から、経済成長を通じての財政再建に政策のかじを大きく切る方針を鮮明にしました。こうした覚悟を示した政府に対し、医療機器メーカーも、現状に安住することなく、期待に応える義務があるのではないでしょうか。医療機器メーカーには、革新的な製品開発や、海外市場に積極展開することなどを通じ、市場を上回る飛躍的な成長を遂げてもらいたいと、切に願っています。
【MEジャーナル 半田 良太】