
2026.11.02
医薬品、医療機器のコストパフォーマンスを測り、保険償還価格を調整する「費用対効果評価制度」がスタートしてから、はや10年が経過します。政府は2027年に向けて「イノベーションの推進」や「現役世代の保険料負担への配慮」の観点から、既存治療と比べて、有効性が示されず、費用が増加した品目の保険償還価格を、“従来のルール以上に引き下げる”方向で検討に着手しました。少子高齢化が進む中で、医療保険制度の持続可能性を高める観点での検討は不可避です。ただ過度に、コスト削減を重視する見直しが進めば、その歪みは関連産業の成長の芽を摘み、医療のアクセスに支障をきたす可能性は、否定できないのではないかという気がします。
●「既存治療よりも保険償還価格が低くなる見直し方針」に業界側は警戒感
費用対効果評価制度を検討する中央社会保険医療協議会(中医協)は9月末、既存技術と比べて有効性が示されず、費用増になった品目について、「26年度費用対効果評価制度改革の骨子(26年度改革の骨子)」で記載された方法を基本に、検討を進めていく方針を確認しました。具体的な実施時期を26年中と定め、費用対効果評価に基づく価格調整を実施すると提案し、中医協の構成メンバーから了承を取り付けました。
ちなみに骨子では、価格調整後の価格の下限について、「価格全体の85%」と明記しているため、医薬品業界や医療機器業界は、費用対効果評価の対象になった品目が、比較対象となる既存治療よりも低い保険償還価格になる可能性を懸念しています。例えば、投与間隔を延長(注射の頻度が4分の1に減少)可能な薬や、使い勝手の良いカテーテルを使った血管内治療が、一世代前の既存治療の保険償還価格よりも低くなる、いわば“逆転現象”が生じかねないと警鐘を鳴らしています。
●有用性系加算を超えた価格引き下げ 患者アクセスに悪影響も
付加価値を付けた新たな薬や新医療機器は、原則として既存の類似品の保険償還価格に、新たな有効性・安全性を評価する“有用性系加算”や、患者数が少ない希少疾病などの開発を促すための“インセンティブ系加算”を上乗せされることになります。
現状の費用対効果評価による保険償還価格の引き下げは、“有用性系加算”の範囲内で行うきまりとなっていますが、26年度改革の骨子で示している新たなルールを額面通り適用すると、繰り返しになりますが、“インセンティブ系加算”にとどまらず、“有用性系加算”でも保険収載時に参考とした一世代前の既存治療の保険償還価格よりも、評価が低くなるケースも想定されます。そうなれば、メーカーが画期的な製品を開発する意欲を削がれるだけでなく、場合によっては、グローバル展開の中で日本への導入が遅れるドラッグ・ラグ、デバイス・ラグや、導入自体を見送るドラッグ・ロス、デバイス・ロスが生じ、患者が最新医療に今まで以上にアクセスできなくなる可能性すら否定できません。
●“価格引き下げツール化”する費用対効果評価制度の是非
また、費用対効果評価が、ほとんど保険償還価格の引き下げツールになっていることも、検証されてしかるべきでしょう。価格引き上げの事例がほとんど存在しないのは、メーカー側のイノベーションが停滞し、画期的な製品が誕生しなかっただけであれば、費用対効果評価制度上は問題ありませんが、費用対効果評価の引き上げルールが厳しすぎて、実質的に機能していないのであれば問題です。26年度改革の骨子では、価格引き上げルールを緩和したばかりなので、今後引き上げに該当する品目が出てくるのか注目したいと思いますが、制度見直し方針として、「イノベーションの推進」や「現役世代の保険料負担への配慮」を掲げている割に、結果論ではありますが、そのバランスがあまりにも後者に偏っている感は否めないでしょう。
●皆保険の維持へ、医療費適正化のみに頼らないバランスの取れた見直しを
医療保険制度の持続可能性を高めるため、医療費を適正化することは不可欠ですが、それだけでは早晩行き詰まる可能性は高そうです。後発品の使用を過度に促進した結果、その歪みとして品質問題が生じ、現在も安定供給に支障が出ていることを忘れてはなりません。いずれにしても、費用対効果評価制度などを活用し、メリハリをつけた保険制度につなげるとともに、患者の窓口負担の在り方、保険外併用療養の拡大、産業の振興による税収増など、少子高齢化社会の中で、多面的でバランスの取れた検討を同時並行で進め、世界に冠たる国民皆保険制度を持続させてもらいたいと切に願うばかりです。
【MEジャーナル 半田 良太】