2013.06.01
「医薬品“等”と、従属物のごとく扱われてきた医療機器に、ようやく光が当たる改正だ」―。政府は5月24日、医療機器の規制を、医薬品と章立てを別にして規定することなどを柱とした「薬事法等の一部改正法案」を国会に提出しました。医薬品のみを連想させる「薬事法」という名称を改め、「医薬品」と「医療機器」を併記する形に変更。医療機器の特性を踏まえた“内容”の見直しにとどまらず、“表現”にもきめ細かく配慮しました。政府は、これまで画一的だった医療機器の規制について、業界とともに運用改善を図っておりますが、その総仕上げとして、改正法案を国会に提出しました。
●医薬品や医療機器の審査をつかさどる「薬事法」
そもそも医療現場で働く皆さんにとって、「薬事法」とは耳慣れない言葉で、あまりピンと来ない、という方も多いかもしれません。簡単に言えば、医薬品を中心に、薬用歯磨きや育毛剤などの医薬部外品、化粧品、医療機器について、品質や安全性を確保するための規制になります。医療機器は原則として、厚生労働大臣や民間の認証機関などから、安全性や有効性があるとの“お墨付き”を得なければ販売できない仕組みとなっており、その審査などのあり方を規定しているのが薬事法なのです。
●現行法は医薬品中心の審査基準で運用
ただ薬事法は、その名のとおり医薬品を中心にした規制体系になっています。そのため、現行法は、医療機器の審査にそぐわないということが、かねてより指摘されています。
具体的には、化学物質である医薬品の審査基準を準用して、閉塞した血管を広げるための金属性ステントなどを審査するため、必要以上に時間がかかってしまいました。さらに、同一の製品を作り続けるという医薬品と異なり、医療機器は、販売後に改良・改善を繰り返していくという製品特性があります。改良・改善のたびに、複雑な申請手続きを求められるケースもあり、医療機器メーカーの負担感は決して軽くありませんでした。
そうした中、日本経済を牽引していた自動車、電機などの主力産業が変調を来たしたため、政府は次代の成長産業の育成を急ぎました。成長産業のひとつに、医療機器産業を位置づけ、日本の製造業の強みである“ものづくり力”を結集し、高い国際競争力を誇る製品を開発できると期待。必要な対策を急ピッチで講じることにしました。
政権交代を経て昨年末に誕生した安倍内閣。日本経済再生に向けて準備している成長戦略は、金融緩和、財政出動と並ぶ“三本の矢”として、高い関心が集まっています。その成長戦略の目玉に、医療機器産業を位置づけ、薬事法改正により規制緩和を進めるべきと、安倍首相自らが宣言しました。
●「名称変更」「別章立て」など、機器の特性を踏まえた制度改正にシフト
では政府は、どういった規制緩和を進めるのでしょうか。改正法案の主要なメニューを紹介していきます。
冒頭で触れたように、薬事法の名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改め、医薬品とは別に、医療機器の審査を規定する独立した章を設けます。薬事法という看板架け替えにより、表現も内容も、製品特性に合った規制に衣替えするという意思を、明確に打ち出しました。
さらに、これまで医薬品医療機器総合機構(PMDA)での「審査」が必要とされてきた医療機器の一部を、民間機関での「認証」の対象とします。これにより、リスクの比較的低い医療機器を民間機関が、リスクの高い新開発された革新的医療機器をPMDAが担当するという役割分担を進めます。結果、革新的な医療機器の発売時期を限りなく海外の先進国に近づけていきます。
また、“ものづくり力”を持った異業種の中小企業が、医療機器業界への参入しやすくなるように、制度を見直します。現在、医療機器を製造するには、必要な基準を満たした上で都道府県に申請し、「許可」を得なければなりませんが、これを登録制とすることで、医療機器産業への参入を促します。
このほか、画像診断などに用いるソフトウエアが、医療機器として認められていなかった問題にもメスをいれます。既に単体ソフトウエアを医療機器として位置づける諸外国と足並みを揃えることにしました。
●今後は業界の出番 4番バッターとしての活躍を期待
ただ改正法案の成立は、参院選挙を7月に控えて審議日程が確保できないため、秋に予定される臨時国会にずれ込むことが予想されています。とはいいながらも、開会中の国会に、改正法案が提出されたことで、政府の役割である環境面の整備は、最終段階に入ったことは紛れもない事実です。
今後は、国内の医療機器メーカーの出番となります。革新的な医療機器を世界に先駆けて生み出し、日本経済を牽引するという“4番バッター”の役割が、求められることになるのです。
【MEジャーナル 半田 良太】