2013.07.01
保険請求事務を担当する方には釈迦に説法ですが、病院で使うカテーテルやステントなどの特定保険医療材料は、国が公定価格を定めています。医療機関は仕入れた医療材料を使って患者を治療すると、まず患者から公定価格の3割分を、後日、保険者から残り7割分を負担してもらいます。
つまり医療機器メーカーは、貴重な国民の税金や保険料を受け取る公益性の高い事業を営んでいるということです。そのため、医療材料の公定価格を国が決めることに、異論を差し挟む余地はありません。ただ、公定価格の設定手法や運用方法を見直す時期が迫っていることも、また事実ではないでしょうか。
医療材料は原則として、同じ機能をもった製品群をひと括りにまとめ、グループ毎に一つの公定価格を設定しています。これは、医療材料のアイテム数が数十万品目にのぼり、製品毎に価格をつけるのが困難なためです。現在、800程度のグループが存在します。一見、医療材料の特性を踏まえたリーズナブルな制度のように見えますが、メーカーサイドからは不満も聞こえてきます。
具体的には、同じグループの中に、新旧の製品が混在しているため、古い製品は通常、大幅値引きで販売されます。一方で、値引率の高い製品を購入し、公定価格との差益を得ようとする医療機関も存在します。こうした経営的インセンティブを優先する行動は、患者にとっての最適な医療につながらないという問題も孕みます。
また医療材料の公定価格は2年に1回、医療機関への販売価格を参考に、引き下げることになっているので、競合品が価格攻勢を仕掛けると、自社品を値引きせずに販売していたとしても、グループ全体で公定価格が引き下げられてしまいます。この制度を採用している限り、医療機器メーカーは、自社では予見不可能な価格下落リスクを抱え、新しい製品を開発する意欲もそがれてしまうと懸念しているのです。
●企業の開発意欲を刺激する制度への改変が必要
過去のコラムでも取り上げましたが、政府は、将来の日本経済を牽引する役割を、医療機器業界に担って欲しいと期待し、薬事法改正法案を国会に提出するなど、各種規制改革に取り組んでいます。革新的な医療材料を評価することで、“企業の開発意欲を刺激すべきだ”と提言。具体的には、先に触れた、グループでひと括りとする価格政策を見直し、将来的に、医薬品と同じように、製品毎に公定価格をつけるべきと指摘しています。
ただ数十万品目の医療材料毎に、公定価格を付与するのは現実的ではありません。例えばグループの新設や細分化、グループ内の品目数を制限するなど、見直しや工夫の余地は多くあります。
●利害関係者間のパイの奪い合いは限界
ただ、医療材料の公定価格を議論、決定する中央社会保険医療協議会の専門部会は、医師、保険者、学者、患者、そしてメーカー関係者という、全てのステークホルダーが参加しています。少子高齢化で逼迫する医療保険財源を意識して議論するため、限られたパイの奪い合いの様相を呈するので、「医療機器産業は、将来の経済牽引役なので、開発意欲を高める制度にしてください」と要望しても、おいそれと認められません。
産業を発展させるために、出来る限り革新的な医療材料の公定価格を高く設定することと、医療保険財政を維持することは、短期的には二律背反するから当然です。医療崩壊などへ対応するための財源も必要です。つまり、中医協での議論には自ずと限界があるのです。
●政府も優先順位をつけて、重点的配分を
そこで、厚生労働大臣や経済産業大臣などの関係閣僚と、医療機器業界の首脳が一堂に会して議論する「革新的医薬品・医療機器創出のための官民対話」という場を有効活用すべきではないでしょうか。業界は、自らが日本経済を牽引していく上で、短期的に医療保険の中でどういった対策を講じてもらう必要があり、その財源や具体的な評価手法を開陳すべき。その結果として、中長期的に日本国内の雇用や税収にどの程度貢献できるのかという青写真も、あわせて明らかにする必要があります。
政府も、医療機器業界にこうした建設的な提案を促した上で、優先順位の高い課題を見定めて、重点配分するといった政治的決断をする時期ではないでしょうか。それがかなわないと、医療機器産業が日本経済を牽引するという構想は、絵に描いた餅になりかねません。
【MEジャーナル 半田 良太】