2013.08.01
政府が、医療機器を含む医療関連産業を、日本経済の牽引役として期待し、成長戦略や規制緩和などの各種施策を打ち出していることは、これまでのコラムで紹介したとおりです。その以前から、医療機器行政を所管する厚生労働省も2003年から5年に1回のペースで、「医療機器産業ビジョン」を策定し、日本発の革新的な製品の迅速化や、産業界全体の発展に向けた将来像を示しています。
●厚労省「産業ビジョン」 規制緩和や国際展開などの施策を網羅
医療機器業界に追い風が吹くこの6月に、厚労省は3度目となる産業ビジョンをまとめました。発展に向けた具体策として、研究開発では、「医学部と工学部の連携」、審査迅速化では「PMDA(医薬品医療機器総合機構)の体制強化」「機器の特性に見合った制度への見直し(薬事法の改正)」、国際展開では、「政府なども関与した、医療機器、技術を踏まえたパッケージ型インフラ輸出」など、これまで打ち出した政策を列挙しました。ただ私自身、「少し真新しさに欠けるほか、産業発展に向けた将来ビジョンと言い難いのではないか」というのが、正直な感想でした。
●“企業人”ではなく“業界人”としての意識共有求める
ただ読み進めると、目を引く記述が。「産業界への提言」として、業界団体のあり方、組織の一体化を、行政から求められている点です。
行政の、業界に対する現状認識として、コンタクトレンズ、マッサージ器、血管の狭窄に用いるステント、画像診断装置など、扱う医療機器が多岐に渡るため、「産業界としてのまとまりに欠ける」「政官などへの政策提言の内容が分散、相反するおそれがある」としています。その上で、「産業界の底上げに寄与する課題に対しては、企業人としてではなく、業界人として参画し、協力・連携し合う意識を共有することが重要」と結んでいます。
●行政指摘を糧に、業界一枚岩を期待
そもそも医療機器業界は、治療系、画像系、光学系、コンタクトレンズなどの品目ごとに20団体近く存在し、横断的に「日本医療機器産業連合会」(医機連)が扇の要として統括する体制です。
お隣の製薬業界でも、新薬と、特許の切れた後に販売する後発品の2つの団体を、医薬品という括りで「日本製薬団体連合会」が束ねており、構図は同じ。概ね一般的な組織体系と言えるでしょう。
ただ以前より製薬業界の取材も重ねていた私も、医療機器業界の団結力を疑問視していた一人だったので、「行政の指摘を受けて、一枚岩となり一致団結して欲しい」という思いを新たにしました。
●新年会を同一日に開催
少し時計の針を戻します。私が医療機器業界の団結力を疑問視し、足並みが揃っていないと感じたのは、医機連傘下の主要団体の新年会が、毎年同日に開催されていたことが発端です。同一日というだけでなく、ご丁寧に開催時間まで重なる始末。いくら扱う製品が競合しないといっても、「あんまりではないか」と思ったのです。その後、医療機器の取材を重ねていくと、詳細は割愛しますが、「業界として足並みが揃っていないな」と感じることが少なくありません。
では製薬業界はどうかというと、薬業4団体合同で新年会を開き、行政や国会議員関係者などを招き、都内ホテルで盛大に開くことが慣例化しています。そこには、「新薬VS後発薬」という対立の構図はなく、「製薬業界の発展」に向けて一丸となっているのです。
医療機器業界は今後、それぞれの活動を尊重した上で、業界全体の底上げを図るという一体感を醸成しなければ、政府からも見放されてしまいかねません。自動車、電機に取って代わる、次代の日本経済牽引役となるには、規制改革や成長戦略云々の前に、業界が足元を固め、一致団結することが最低条件です。これが「産業ビジョン」の一番のポイントと言っても過言ではないでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】