2013.09.01
中央社会保険医療協議会は昨年から、医薬品や医療材料をはじめとする医療技術の保険導入や、公定価格の設定に、費用対効果の視点を取り入れる方向で、検討を開始しました。政府の規制改革会議も8月、中医協に対し、「2014年度の価格改定で実現されることを要望する」との声明を出しました。「医療技術の価値に見合った公定価格の設定」を目指す両者ですが、それぞれが描く最終的なゴールは異なっていますが、遅々として進まない議論の加速化につながればと期待しています。
●厚労省の狙いは「医療費の適正化か」
厚労省が医療技術への費用対効果導入に向けて検討に着手した理由は、実のところ「医療費の適正化」と見られています。「適正化」とは、霞ヶ関・永田町界隈では「削減」と同義語。医療現場で働く皆さんも過去、相次ぐ診療報酬マイナス改定で、煮え湯を飲まされたことからもお分かりでしょう。厚労省は表向き、削減一辺倒ではないとのスタンスですが、少子高齢化の進展で、増え続ける年金、医療、介護の社会保障費を、少しでも緩やかな伸びに抑えなければならないというミッションが重くのしかかります。「医療費抑制手段の一つとして、費用対効果を導入しようとしている」との見方が、周辺業界に広がっているのはこのためです。
●停滞する費用対効果議論
厚労省は、日本での導入を見据え、費用対効果をすでに導入済みの諸外国の事例を参考に、中医協での議論を進めています。
ここで費用対効果先進国である英国の仕組みを簡単に解説します。費用対効果を測る“ものさし”として、患者の生存年にQOL(患者の生活の質)を加味したQALY(質調整生存年)を用いています。このQALYは、完全な健康状態を「1」(上限)、死亡を「0」(下限)として、患者の健康状態を数値化するものです。理論上、新しい医療技術で、QALYの数値を上げるためにかかった費用が安ければ、高い公定価格となりますが、費用のわりにあまり効果がないと判断されれば、保険適用が見送られます。英国では、費用対効果の針が、効果面よりも、医療費抑制という費用面に振れたため、有効性、安全性が認められる医療技術も、すぐに保険適用されないという事実が際立つようになりました。そのため、中医協では、医師や業界団体から、QALYを用いた費用対効果の負の側面を懸念する声が相次ぎ、議論が停滞しているのです。
●規制改革会議は、費用対効果を「イノベーション評価の道具」と捉える。
そうした中、規制改革会議が、費用対効果の導入を求め、厚労省に検討を加速するよう提言しました。タイミングとして、厚労省への援護射撃のように見えますが、少し趣が異なります。規制改革会議が求めているのは、革新的な製品の価格算定ルールの見直し。イノベーションを積極的に評価するために、費用対効果を用いるよう訴えているのです。
規制改革会議の事務局は、「新しい技術が生まれることで、治療期間が大幅に短縮できるのであれば、高い価格設定をしても問題ない。現行の価格設定ルールでは、こうした革新的な製品を十分評価しきれないことから、費用対効果の導入を提案した」と説明します。
つまり「医療技術の価値に見合った価格設定」という方向性については、両者一致するものの、財政健全化というスタンスで価格抑制に力点を置く厚労省と、経済成長を見据えた規制改革会議では、立ち位置が異なっているということなのです。
●費用対効果の導入は不可避「要は使い方次第」
医療材料や医薬品のみならず、医師などの技術料である診療報酬も、これまで根拠に基づく価格設定というより、財政を優先した理不尽な対応があったことも事実です。そうしたことを踏まえると、「費用対効果は、根拠に基づく価格設定をするために不可欠なツール。要は使い方次第」ということではないでしょうか。
治療効果の高い医療材料、医薬品であれば、高い価格設定をして評価すべきですし、その結果、今の仕組みで財源が足りないとすれば、パッチワークで対応するのではなく、患者や保険者、国民に相応の追加負担を求めるべきなのです。逆に、治療効果の低いものは、保険を適用すべきではありません。追加負担を強いる前に、既に保険適用されているものでも無駄を省き、適正化することは大前提になります。
【MEジャーナル 半田 良太】