2014.07.01
「薬事法」改め、「医薬品医療機器等法」が成立して、半年以上が経過しました。業界の要望を容れた、医療機器の特性を踏まえた法律として、厚生労働省は11月の施行に向けて準備を進めています。具体的な運用は、厚労省担当部局の“さじ加減”次第なので、業界との連携を密にし、詰めの作業を進めていることを勘案すると、過度な心配は無用でしょう。「環境整備は整った。あとは業界が結果を出す番だ」と意気込む関係者も少なくないようですが、日本経済の牽引役となるには、解決すべき課題は少なくないとの声もあります。
●産業育成に向け、各種施策を打ち出す政府
安倍内閣では、医療機器を含めた医療関連産業を、日本経済を牽引してきた電機・自動車産業のように独り立ちさせるべく、各種の規制緩和、産業振興策などを講じていることは、ご承知のとおりです。医薬品を基本とする薬事規制を見直し、医療機器を別章立てにした医薬品医療機器法はもちろん、いわゆる医療機器基本法と呼ばれる法律も、先の国会で成立したことからも明らかです。
政府は、「優れた中小企業の“ものづくり力”の活用」「ベンチャーなどの業界参入の促進」で、高齢化や医療技術の進展により、右肩上がりの成長を続ける医療機器市場で、グローバル企業と伍して戦うことができるのではないか、と期待しているのです。
●政府の動きを歓迎も 革新機器のサポートは時期尚早?
さらに政府は、医療機器の審査期間短縮に向けて、PMDA(医薬品医療機器総合機構)について、質量の両面の充実を図っています。さらに中小・ベンチャーの業界参入をサポートするため、薬事申請関連の研修や、革新的な機器の審査手数料の減免など、予算事業などでも支えます。
医療機器業界は、こうした動きを評価し、継続するよう求めていますが、中小、ベンチャー向けサポートについて、「彼らがすぐに、革新的な機器を開発できると思っているのか」という疑問もあります。
●イノベーションの機器は、21世紀で3品程度
同様の意見もあります。医療機器センターの菊地眞理事長は、大企業でさえ、イノベーションを備えた革新的な機器の開発に成功していないと話します。21世紀に入って、イノベーションと呼べるのは、「手術支援ロボット」「カプセル内視鏡」「薬剤溶出ステント」の3品程度と指摘。FDAが、2018年までに申請を見込む製品群を見ても、改良、後発医療機器と呼ばれるもので、大半を占める状況と、政府の審議会で報告しています。
そうした中、イノベーションを備えた、「革新的な機器開発を支援することに比重を置いた政府の施策は、十分なのか」という問題意識に行き着くのです。
●米国よりも“一桁”高い、後発・改良機器の審査手数料
一部の業界関係者も、イノベーション、革新にとどまらない支援が必要と意見します。彼らが問題視するのは、「高額な後発・改良医療機器の審査手数料」。厚労省が、医薬品医療機器等法の施行に向けて、先日提示した審査手数料案をみると、患者へのリスクが比較的低い(クラス2、3の)、後発・改良医療機器の審査手数料が約150万円と高額で、「米国と比べて一桁多い水準」と不満げです。先ほどの中小、ベンチャー向け支援と同様、全体の底上げにつながる体制が必要とのスタンスなのです。大企業でさえ、革新的な機器の開発をする横で、後発・改良機器を開発、販売して、経営を安定させる構図なのですから、その意見も否定できません。
厚労省もこうした業界の声は耳にし、理解もしていますが、「限られた予算の中では、革新的なものに傾斜配分するしかない」と苦渋の表情。PMDAが、審査手数料のみで運営されていることを考えると、おいそれと、審査手数料を引き下げるわけにはいきません。さらに、目先の企業経営を安定させるため、厚労省が、革新性とはいえない、後発・改良機器の審査料の引き下げることや、減免を主張することは、財布の紐を握る財務省には永遠に理解されないでしょう。
とは言いながら、医療機器を、自動車や電機に次ぐ、日本経済を牽引する産業に育成するのであれば、長期的視点でのサポートは不可欠。つまり、政治の判断になってきます。
●今は平時か?
今は平時なのでしょうか。平時ならば、後発・改良機器の審査手数料を助成する予算事業は通らないでしょうが、有事と考えればどうでしょう。自動車産業などの競争力が維持できなくなれば、日本の未来はお先真っ暗。10~20年後の基幹産業とするための、必要不可欠な投資とは捉えられないのでしょうか。その昔、「エコカー減税」や、「家電エコポイント」などで、政府が特定の業界をサポートしてきました。失われた○年などと呼ばれたその時代背景や、産業の裾野の広さを考えると、公共事業としては、ある意味やむをえない部分があったのです。関係しない異業種からは、間違いなく不公平に映りましたが。
私は、政府が、医療機器産業を本気で次代の経済牽引役にするのであれば、多少の不公平感には目をつぶっても良いのではないかと思うのです。どの業界にも公平に対応できるような余裕のある時代は、はるかかなたです。
日本全体で見て、緩やかな衰退をたどるために、公平性を担保するか、安定成長に向けて、柱となる産業育成のために、一定の不公平を容認するか、今、その判断を問われているというのは、業界に肩入れしすぎでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】