2014.09.04
医療技術、医療機器の進歩で、これまで手術に頼らざるを得ないような疾患まで、低侵襲で治療することができるようになりました。例えば動脈硬化等で血管が狭まることで発生する虚血性心疾患。これまでは、薬物治療を原則とし、重症化した場合には、冠動脈バイパス手術を施行してきました。しかし、手術に代わるカテーテル治療が台頭します。狭くなった冠動脈を風船で膨らませるバルーンカテーテル治療や、狭窄部位に金属製の筒を留置するステント治療の普及により、手術を回避することもできるようになりました。こうした低侵襲医療は、加齢等で体力が落ちている高齢者などに福音をもたらし、患者のQOL向上につながっていることは周知の事実です。
●技術進歩で不要な治療も増加
しかし、便利な医療機器も使い方次第です。とくにステント治療は低侵襲といえども、狭まった血管を拡げるために血管内に異物を留置するので、それで生じる不具合(ステント血栓症など)なども長期的にケアしなければなりません。にもかかわらず、薬物治療を継続すべき慢性期の患者に対し、安易にカテーテル治療に踏み切るケースが多発します。厚生労働省もそうした声を耳にし、2014年4月の診療報酬改定で、バルーンカテーテルやステント留置に対する診療報酬点数を見直しました。具体的には、救急搬送など、急性期患者への点数を引き上げる一方、計画的な治療が可能で、症状が安定した慢性期患者への点数を引き下げたのです。「カテーテル治療が必要な患者を、しっかりと見極めて欲しい」とのメッセージを発信したわけです。
●血流評価を“数値化”するFFRワイヤー登場 医療費節減に貢献
「ではどの段階でカテーテル治療に踏み切るのか」。医師はこれまで、画像をみて、血管の狭窄度合いを判断してきました。「一定の判断基準に基づいて判断することができないか」という医療現場に応えて誕生したのが、FFRワイヤーです。
FFRワイヤーとは、冠動脈の狭窄により、どの程度血流が阻害されているかを測る医療機器。血管内の圧力を“数値”で示せるので、医師は、カテーテル治療に踏み切るかどうかを判断する際の目安とすることができるようになりました。
学会もFFRワイヤーを用いた検査について、「不要なカテーテル治療を避けることができ、医療費削減も見込める」と主張し、厚労省に診療報酬で評価するよう積極的に働きかけます。厚労省も、心臓カテーテル検査の診療報酬を見直し、FFRワイヤーが使いやすくなるよう、改定のたび増点してきました。
●診療報酬は一層のメリハリ付けが必要
高齢化が進み、国の医療保険財源が逼迫する中で、すべての技術を保険報酬で評価するわけにはいきません。そうした中で、厚労省には、一般化、陳腐化した医療の評価を抑制する一方、新たな治療の道を拓く画期的なものや、医療費節減につながるような医療技術を十分に評価する流れを、今後加速してもらいたいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】