2014.10.01
医療法の改正を含む、医療介護総合確保法が先の通常国会で可決しました。その医療法改正で目玉とされる「病床機能報告制度」が10月1日にスタートします。厚生労働省は、入院機能を備える医療機関に対し、病床機能の報告を義務付けることで、地域の医療提供体制の詳細を把握。いわゆる“団塊の世代”が75歳以上を迎える2025年を見据え、必要なサービスを提供できる「地域包括ケアシステム」の整備に向け、診療報酬や補助金支給などによる“政策誘導”も含め、医療の機能分化を促していくことになります。
●限られた医療資源の適正配置へ第一歩
現在の病床区分は、急性期医療を担う一般病床と、慢性期医療を担う療養病床に大別されますが、一口に一般病床といっても、救命救急やがん手術など高密度の医療から、慢性疾患患者の症状悪化などの受け入れまで、その裾野は幅広いです。地域によっては、急性期医療が過剰で、慢性期医療が整っていないといった“ばらつき”も存在します。厚労省は、“団塊の世代”の高齢化を見据え、急性期から在宅、介護まで、偏りのない医療提供体制の整備に一刻の猶予もないと想定。限りある医療資源を適正に配置することが、逼迫する医療保険財政面でも欠かせないと判断しました。
●「超急性期」から「慢性期」の4区分で報告求める
では入院機能を持つ医療機関に対し、どのような報告を求めるのでしょうか。まず病棟ごとに、提供している医療が、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」のいずれに該当しているか、医療機関に選択してもらいます。さらに、CT、MRI、PETなどの高額な画像診断機器について性能ごとの配置状況や、重症患者への治療実績も、それぞれ報告対象に含みます。
●地域の“需要”に基づき、病床転換迫られるケースも
都道府県は、これらの報告を集計し、地域の高齢化の状況、医療ニーズなどを勘案し、「地域医療ビジョン」を策定します。その中で、機能ごとに必要となる病床数などを提示するほか、ビジョンの実現に向けて、行政や医療関係者からなる「協議の場」も新設します。
現在、7対1入院基本料を算定する病床は36万床に膨れ上がっていますが、仮にこうした病床がそのまま存続したとしても、関係者からなる「協議の場」で過剰と判断されれば、一部の医療機関には、「(高度)急性期」から退場してもらい、「回復期」などへの転換を促すケースも視野に入ってくるでしょう。つまり今後の医療提供体制は、供給サイドではなく需要サイドの意向を踏まえ、再編成されるということを意味します。
●画像診断機器の適正配置につながる可能性も
医療機能の分化の影響は、医療機関だけにとどまりません。医療機器業界では、画像診断機器の適正配置につなげていくのではと見ています。診療報酬などを議論する中央社会保険医療協議会で、国内の画像診断機器が先進国に比べて多く配置されていることを「医療の無駄」と問題視する意見がある一方、「がんの早期発見につながっている」との主張もあり、評価が分かれています。
しかし厚労省は、病床機能報告制度を契機に、画像診断機器の稼働率も調べ、適正配置につなげるのではないかとの観測も浮上。診療報酬などの政策誘導も駆使し、①急性期には最先端製品を、回復期や慢性期では普及型製品を配置させる②稼働率の低い医療機関には画像診断機器は不必要とし、大病院との共同利用を促す―ということも、視野に入るかもしれません。
●機能分化進めば、流通コスト削減にも寄与
もうひとつは、特定保険医療材料の公定価格引き下げへの波及です。同じく中医協では、海外メーカーが市場を独占している循環器系の製品が、国内の公定価格が海外での価格に比べて高止まりしているという「内外価格差」の問題が指摘されています。
海外メーカーは、日本の医療機関が機能ごとに集約されていないため、急性期医療を提供する数多くの医療機関に製品納入しなければならず、医療機関の役割分担が確立した欧米に比べ、流通コストが高いことを、内外価格差の要因のひとつとしています。ただ仮に病床機能報告制度がスタートし、医療機能の分化が進むのであれば、流通コストが削減され、公定価格の引き下げにもつながる可能性もあります。
病床機能報告制度は、計画どおりに進めば、医療機能の再編はもちろん、診断・治療機器業界、医療機器流通まで波及する一大改革につながる可能性を秘めています。今後の動向に注目してください。
【MEジャーナル 半田 良太】