2015.04.01
「天才でなくても、革新的な医療機器が発明できるようにするにはどうしたらよいか」―。米スタンフォード大で実践される「バイオデザインプログラム」は、こうした発想で作られたものです。大学や産業界、日本政府が手を携えた結果、国内でもその教育プログラムを導入することが決まりました。早ければ2015年後期(予定)から、大阪大、東北大、東京大の3大学で、同プログラムが動き出します。
●13年で35社のベンチャーが誕生 大企業がうち4社を買収
米スタンフォード大のバイオデザインプログラムとは、医療機器開発でリーダーとなりうる人財を育成するため、イノベーションに必要な考え方やスキルを、臨床現場のニーズを起点として習得する教育プログラムです。医師1人と工学系3人でチームを組み、病院内で医療機器のニーズを探り、最終ゴールである起業を目指すという構成です。これまでの13年間で、35社のベンチャー企業が生まれ、うち4社が大企業に買収されています。バイオデザインプログラムから生み出された医療機器で、約20万人が治療を受けているなど、一定の成果をあげています。
●ニーズ探索に半年間 点数化で作り手の“過度な思い入れ”排除
何故、これだけの高い確率で、臨床現場のニーズを捉えた医療機器が開発できるベンチャーが誕生するのでしょうか。それは、市場や業界研究、臨床現場でのニーズ探索とその絞込みという入口の段階に、半年の時間を費やして、推敲を重ねるからだといいます。
医師は、自分の専門外の診療科を観察することになっており、新しい視点や発想を生み出すよう心がけます。工学系3人は、エンジニアとしての作業を封印し、医療従事者の気持ちになって臨床現場を観察することに専念します。こうした役割分担に基づき、4人が半年間で約200のニーズを探り、新たな医療機器による治療効果や、既存治療の有無などで点数化して比較、有望な3つに絞り込みます。点数化するのは、自分達が思い入れのあるニーズに夢中になることを防ぐためでもあるそうです。
残りの半年で、ニーズに応えるための製品コンセプトをまとめ、プロトタイプを試作。あわせて特許、薬事・保険対策、投資家へのプレゼンといった、出口戦略に移っていきます。とくに特許、薬事・保険対策などは、産業界の支援が不可欠な分野といえるでしょうが、このような体系だった仕組みが、天才以外でも、革新的な医療機器の開発につなげられる要因といえます。
●医学部教育の改革も視野に入れるべき
バイオデザインプログラムは、20代後半から30代前半の社会人が中心となる教育プログラムです。大変重要な取り組みで、国内で導入することも意義深いことではありますが、学部教育段階でも、医療機器開発に関与できる仕組みが必要ではないかと思います。
現在、医師不足を背景に、政府は大学医学部の定員を増やしております。その中で、一定期間、その地域に従事することを条件とした“地域枠”などが存在しますが、“医工連携枠”のような仕組みを設けることも、検討してはどうでしょうか。革新的な医療機器を開発する天才の育成も視野に入ってくれば、日本政府の掲げる、医療機器産業による経済牽引も、実現可能性が高まると思います。
【MEジャーナル 半田 良太】