2015.06.01
「半身不随などの重い後遺症が残り、最悪の場合命を落とす」というイメージの強い脳梗塞。近年、薄日が差すような治療法が登場・確立し、社会復帰する患者さんが見られるようになりました。その原動力は、2005年に登場した血栓を溶かすt-PAという薬物療法と、10年に登場した物理的に血栓を取り除く血栓回収デバイス。デバイスについては、10年に登場した第一世代品が役割を終え、治療効果の高い第二世代品が普及期に入るなど、 医療技術は着実に歩みを進めています。ただ、脳梗塞治療で最大の鍵を握るのは、発症から治療までの“時間短縮”。今回のコラムでは、脳梗塞の治療技術についてのおさらいと、時間短縮に向けて講じるべき取り組みを、紹介していきます。
●t-PAは4.5時間以内、血栓回収デバイスは8時間まで治療可能
t-PAは当初、脳梗塞発症から3時間以内しか投与できませんでしたが、12年に4.5時間まで緩和され、その恩恵を受ける患者さんは増え続けております。国内では年間1万人程度がt-PAの恩恵を受けておりますが、それでも脳梗塞患者の5%程度にとどまります。出血リスクがある患者に投与できないほか、発症後4.5時間以内という時間の壁が最大のネックになっているのです。
血栓回収デバイスは、脳梗塞発症後8時間まで有効ですので、薬物治療よりも時間的な猶予があります。出血リスクがありt-PAが投与できない患者にも治療の道を拓き、かつ薬物治療を補足する観点からも、臨床現場から高い期待を集めています。
●完全な社会復帰に向けて 関係者の誤解払拭も不可欠
ただ、いずれの治療を選択するとしても、少しでも早く治療を開始し、血流を再開することが、後遺症を軽く済ませ、最大の治療効果を得ることにつながります。しかし一部では、「4.5時間以内に治療を開始すればよい」「発症後8時間まで大丈夫」との誤解が、患者、家族のみならず、ドクター以外の一部医療関係者にまでひろがっているとの声も耳にします。ここでは、とくに救急搬送時の課題や、過度な医療連携を進めることの落とし穴について触れたいと思います。
●t-PA実施施設で血栓回収治療ができるのは“半分程度”
まず救急搬送について。とくに問題意識が示されているのは、t-PAの投与が可能な急性期病院のほとんどで、血栓回収デバイスを用いた治療が可能という誤解です。実は、t-PAの治療が可能な病院のうち、血栓回収デバイスによる治療が可能なのは、約半分程度にとどまるのが現状です。医療機能の分化、連携促進という観点から、血栓回収デバイスを使える病院をこれ以上増やすということにはならないでしょう。そのため、血栓回収デバイスを販売する医療機器メーカーは、前述の血栓回収療法実施施設についての情報提供の範囲を、医療現場のみならず、救急隊などにも拡大する努力が必要になるといわれています。
そして政府が進める、かかりつけ医の普及という点にも、落とし穴があるようです。患者やその家族が、“まずかかりつけ医に”という意識を強く持ちすぎることが、脳梗塞治療を遅らせてしまうことにつながるケースもあるようです。
医療保険財政の観点から、救急搬送の有料化などが検討される時代ですが、こと脳梗塞に関しては、「疑わしきは即救急搬送」という行動を、国民は取るべきでしょう。そしてその救急搬送で、適切な医療機関を選択できるよう、メーカー側の情報提供充実が求められています。
【MEジャーナル 半田 良太】