2015.07.01
諸外国に先駆けて少子高齢化社会に突入する日本。安倍晋三内閣は、高齢化による医療ニーズの高まりを受け、医療関連産業を、日本経済けん引役に位置づけて、バックアップしております。ただ高齢化の進展とともに、社会保障関係予算は膨張を続け、日本の財政を圧迫し続けていることも事実。つまり車の運転に例えると、右足でアクセルを踏む(医療業界を成長産業に位置づける)一方、左足でブレーキを踏む(収入に直結する診療報酬等の削減)ような、二律背反する政策を打ち出さざるを得ない状況にあります。
●欧米団体の提言 「予防」 「IT活用」の視点を重視
欧米の医療関係企業や経済団体などで組織する、在日米国商工会議所(ACCJ)と欧州ビジネス協会(EBC)は、日本が直面する二律背反する課題へのソリューションとして、「健康寿命の延長による日本経済活性化」と題した医療政策白書を5月末に発表しました。白書は、41分野の198項目について政策提言していますが、今回は、「予防医療」「ヘルスケアITの活用」にフォーカスして紹介していきます。
●予防、労働生産性向上へのインセンティブが必要
まず予防医療ですが、白書では日本の医療政策について、「発症後、病状が深刻になってからの疾病治療に焦点を当ててきた」と総括。その上で、予防志向型の医療パラダイムへの政策転換を促すべきとしています。具体的には、検診やワクチン接種など、疾病リスクを積極的に軽減する取り組みについて、インセンティブを付与するよう要求しています。
さらに病気で働けなくなった場合を想定した、「労働生産性向上」という観点を踏まえ、政策を立案すべきとも訴えています。
●遠隔医療、在宅医療でIT活用の余地 規格統一の必要性指摘
次に、ヘルスケアIT。日本では、少子高齢化の進展で医療ニーズが高まる一方、医師の偏在問題や、在宅医療の不足など、供給面に不安を抱えています。白書では、ITの活用が、こうした供給面の不安解消につながると指摘。世界標準の統一規格を採用したデータ相互活用の環境を整備するとともに、規制緩和による遠隔診療の拡大などを訴えています。
欧米では、在宅にある医療機器がインターネットとつながることで、医師が患者のバイタルサインを確認。慢性疾患の管理や、薬の飲み忘れなどのチェックし、決め細やかな医療提供と、医療費削減を両立できると紹介しています。
白書は、「労働生産性向上」といった、日本の医療政策で重視されてこなかった視点を踏まえた内容を盛り込んでいます。こうした視点を、診療報酬に採用することも必要ではないでしょうか。ただ子宮頸がんワクチンの導入を急いだ結果、国内で副反応問題が起こったことを忘れてはなりません。欧米の先進的事例を積極的に採りいれる柔軟さと、人種差や日本の特有の文化的背景などを考慮する慎重さが、必要になります。
【MEジャーナル 半田 良太】