2016.01.04
医薬品医療機器等法では、医薬品をベースに、すべての製品を審査する旧薬事法の視点から脱却し、医療機器、再生医療製品の特性を踏まえた規制に衣替えしていることは、過去、コラムで取り上げてきたとおりです。とくに再生医療は、ヒトの細胞などを用いて製品化することから、品質が一定しないという特性に配慮。有効性が「推定」されれば、一定の期限を区切って製造を認め、早期に市場投入できる仕組みを作りました。
ただ、製品の製造認可という“入口部分”は整理されても、保険償還という“出口部分”は未整備のまま。そのため、重症心不全患者の心機能を維持する「ハートシート」(テルモ)という再生医療製品が、来年1月から保険適用されることになりましたが、保険償還価格は1476万円と、希望価格より約400万円以上安くなりました。画期的な製品の保険償還価格が低いままでは、政府が目指す成長産業化が実現するのか、疑問符がつきます。
●移植後進国で誕生 世界初の心臓シート
現在、医療関連産業を眺めると、医薬品、医療機器は、欧米の主要企業が売上高、利益面で存在感を示しており、日本企業は後塵を拝しています。再生医療についても、すでに皮膚、軟骨などについて、韓国、欧米などで製品化が加速しておりますが、こと心臓については、日本が世界に先駆けてハートシートの開発に成功しました。
“臓器移植後進国”という国内事情が大きく影響したことは間違いないでしょうが、世界初の輝ける成功事例であることは疑いようもありません。今後の技術革新次第では、現在の心臓移植までの待機で用いるという用途から、移植の代替手段となる可能性も秘めているわけです。そうなれば従来以上に海外市場も開拓することが出来るようになります。
●機器のルールでは、高い値付けは難しいのが実情
ただせっかく、製造認可の段階で製品特性に応じた規制を敷き、世界初の製品化が実現したにもかかわらず、開発企業であるテルモに十分な利益が生まれないのは残念な限りです。心臓移植3000万円、人工心臓2000万円のコストに対し、ハートシートによる再生医療1500万円弱は、高いとはいえないのではないでしょうか。
ハートシートに高い価格がつかなかった要因は、複数存在します。現在、再生医療製品の保険償還価格を決める独自ルールは存在しないこともひとつです。再生医療製品は、医薬品に近いのか、医療機器に近いかを事例ごとに判断され、どちらかのルールを適用することになっています。ハートシートは医療機器のルールを適用して保険償還価格が決まりました。
医薬品と医療機器の保険償還価格の設定ルールは、製品原価に流通経費と業界平均の営業利益率に基づいた利益を上乗せして決めるのですが、医薬品と医療機器の平均営業利益率に大きな格差が存在します。前社は一部上場など大企業中心で、後者は中小企業中心のため、後者のルールを適用されると、低い償還価格にとどまってしまうのです。
●ベンチャー参入促す魅力ある市場にすべき
2つ目の要因は、そもそも少子高齢化の進展で、医療保険財源が枯渇している点。右肩上がりで増加する社会保障費の伸びを抑制するという視点も間違いなく働いているのです。
しかし、再生医療分野を成長産業に位置づけるのであれば、画期的な製品に高い保険償還価格を設定することは重要。今回はテルモの製品でしたが、今後は、再生医療製品の開発者として、製薬、医療機器業界に属さないベンチャーなどが名乗りを上げることも想定されます。
そうした意味で、再生医療製品の保険償還価格ルールを独自に作ることはもちろんですが、革新的な製品には高い価格をつける仕組みも重要になります。そのため、厚生労働省は、護送船団方式ですべてのプレーヤーを守るような政策とは決別すべきです。魅力ある市場にならなければ、ベンチャーも寄り付かず、結果として産業化も「絵に描いたもち」に終わりかねません。
【MEジャーナル 半田 良太】