2016.07.01
政府は5月31日、「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画」(いわゆる医療機器基本計画)を閣議決定しました。2014年7月に閣議決定した、「健康・医療戦略」では、20年頃の医療機器輸出額を1兆円まで拡大する目標を掲げており、今回の医療機器基本計画は、それに向けた具体的な工程表という位置づけといったところでしょうか。
13年に、医療機器の特性を踏まえた「医薬品医療機器等法」を公布、15年には医療機器開発の司令塔である「日本医療研究開発機構」(AMED)を発足させるなど、医療機器産業の成長に向けたメニューをそろえました。政府も、「医療機器に特化した初めての基本計画」と胸を張ります。
●当事者間、省庁間の連携を強調
いわゆる医療機器基本計画では、医療機器メーカーと大学・研究機関、医師の当事者間はもちろん、縦割り行政と揶揄されてきた、厚生労働省、経済産業省、文部科学省、内閣官房という省庁間での連携を密にすることを原則としています。国内での医療機器開発はもちろん、国際展開に向けた方策を検討するとの骨格の下で、具体的な方策を進めていく方針を掲げています。
●中小企業の新規参入もサポート
基本計画の具体的な内容をみると、まず先進的な医療機器の研究開発を進めるため、これまで埋もれがちだった現場でのシーズ・ニーズを抽出するスキーム作りと、製品化を見据えた出口戦略が鍵を握るとしています。さらに、革新的なもののみにこだわらず、新興国、在宅医療分野などのニーズも加味し、低コスト化、軽量化機器の開発なども必要になると指摘しています。
その上で国として、開発初期から事業化に至るまで切れ目なく支援する「医療機器開発支援ネットワーク」を構築してサポートすると表明。イノベーションを生み出す人材育成なども手助けする考えです。さらに、中小企業の新規参入を促すため、医療機器メーカーなどとのマッチングにも力を入れるとしています。
●輸出1兆円達成の鍵は新興国
さらに輸出先としてのターゲットを新興国に定め、日本式の医療拠点をパッケージで届けるとしています。良質な医療機器のみを輸出しても、現地のメディカルスタッフが使いこなせないと、埃をかぶってしまうという苦いケースを経験しています。そのため、新設したメディカル・エクセレンス・ジャパンを核に、JICA、JETRO、関係省庁が一体となり、現地の人に使い方を習熟してもらうといったサポートも欠かしません。さらに、医療機器の輸出先の新興国と、規制当局間の対話を進め、日本の厳格な基準をクリアした医療機器をすぐに現地で使えるよう、現地での審査を省くための規制調和活動も活発化。欧米の先進国と対等以上に戦えるよう、下支えする考えです。
●国策として企業再編も必要では
医療機器基本計画は、これまで考えられてきた医療機器開発のためのメニューをパッケージに纏め、政府が閣議決定という“お墨付き”を与えたといえます。地道に進めていくべき課題を網羅していることは間違いありませんが、はたしてこれで経済牽引産業として羽ばたけるのかどうか、疑問が残ります。
高度経済成長時代を振り返ると、時の経済を牽引した(現在もしている)自動車、鉄鋼業界では、当時の通商産業省が、国策として企業再編を促しました。自動車業界では、「日産自動車とプリンス自動車」(=現・日産自動車)、鉄鋼業界では、「富士製鉄と八幡製鉄」(=現・新日鐵住金)の合併などがそれに当たります。
医療機器業界でも近年、国際競争力のあるオリンパスや、東芝メディカルシステムズに不祥事が持ち上がり、再編のチャンスがありました。しかし、結果として、強者連合という形にはなりませんでした。
政府には、医療機器基本計画のような地道なサポートにとどまらず、一昔前の国策的な企業再編を後押しするような、思い切った取り組みも、視野に入れてはどうでしょうか。「医療機器産業を経済牽引役にする」ということが、掛け声倒れに終わらないために。
【MEジャーナル 半田 良太】