2016.08.01
約30万とも、約50万アイテムとも言われる特定保険医療材料の数が大幅に減少し、医事課の皆さんの日常業務である、診療報酬請求業務が簡素化されるかもしれない。公益財団法人医療機器センターは、(1)イノベーティブな製品の価格を従来以上に高く評価する(2)汎用化された製品の価格を低く抑える――という、特定保険医療材料制度改革の私案を提言した。私案の主な内容は、イノベーティブな製品のみを特材とし、汎用化された製品は特材とせずに、DPCのように、医師の診療報酬(技術料)の中で評価するということ。2018年度診療報酬改定、特材制度改革の議論で、この私案も検討されていくことが予想されている。私案の方向性が容れられれば、冒頭のように請求事務も大きな変更を受けることになる。
●機能区分制度は、経営の予見性に弱点抱える
機器センターは6月末、特材の保険償還価格制度を現行の機能区分収載から、銘柄別収載に近い形に見直すよう提案した。機能区分制度とは、アイテム数の多い特材の特性を踏まえたもので、原則として同じ機能を果たす製品を同一の公定価格でグルーピングするもの。その結果、膨大なアイテム数の特材は、約800の区分に整理されている。
コラムでこれまで紹介してきたように、医療機器業界は次代の日本経済のけん引役として期待されているが、機能区分制度の下では、イノベーションが十分に評価されず、母国市場で十分な利益を確保できないまま、欧米のグローバル企業との競争に臨まなければならないとの指摘もある。
●経営の予見性高い銘柄別制度の採用を
機能区分制度は、どんなにイノベーティブな製品を開発しても、同じ区分に他社が参入し、安売り攻勢をかければ、2年に1回大幅に特材の公定価格が引き下げられてしまうなど、経営の見通しが立てづらく、経営の安定感も乏しいというデメリットを抱える。
一方、銘柄別収載を採用する医薬品は、自社の販売価格のみで薬価改定を受けるため、将来の見通しが立てやすい。「高い薬価を維持するため、安売りはやめておこう」「他社のシェアを奪いたいので、安売り攻勢をかけよう」といった、戦略の自由度も、経営の予見性も高いのだ。
●メリハリの効いた制度へ イノベーティブな製品のみを特材に
「アイテム数が多い特材の特性に配慮したうえで、イノベーションを高く評価することはできないだろうか」――。機器センターは、その解のひとつとして、今回の私案を提言した。その心は、イノベーティブな製品のみを特材として、銘柄別で評価し、従来以上の高い価格設定を要求する一方、汎用化した製品は特材から除外し、医師の技術料の中で評価することで、実質的な価格引き下げを受け入れるという、メリハリの効いた内容。
●待ちの姿勢から決別を 業界は体質改善できるか
医療機器は、その製品特性から、市場が細分化されており、大企業が参入しないニッチ市場も数多く存在するという。そのため、限られた領域のみで事業展開し、先人たちの努力で寡占化したシェアに、安住し続ける企業も存在すると言われている。
医療機器産業が、日本経済けん引役になるには、継続してイノベーティブな製品を開発し、海外市場にチャレンジする企業が不可欠。私案では、そうした企業を後押しするような、特材制度に変革するというメッセージが込められている。寡占化された市場に安住し、イノベーションを起こそうという気概がない企業は、「退場してください」と言っているようにも見える。
厚生労働省も私案の内容を把握しており、今後の制度改革の下敷きとなって、議論が深まっていく可能性は高い。ただ、私案の最後には業界を叱咤激励するメッセージも添えられた。「医療機器産業が我が国の成長産業となるためには、もっと業界主導で改革を進めることが必要であり、そのため産業界自らが問題提起し、意見集約を行い、政策提言を行っていくことを強く期待する」と。
これまで、内資系企業・業界団体は、「あれもこれも欲しい」という提案が目立った。業界が身を切るような制度改革の提案は示されず、場合によっては外資系の業界団体の発想に“相乗りする”といった場面もあった。公益財団法人、外資系の業界団体、厚労省のお膳立てを待っているだけであれば、いくら建てつけの良い制度が実現したとしても、内資系医療機器メーカーの発展、ましてや医療機器業界が日本経済けん引役になるということは、画餅に終わる。今問われているのは業界の姿勢ではないか。
【MEジャーナル 半田 良太】