2016.10.01
冠動脈狭窄治療に新たな選択肢が整いつつあります。厚生労働省は9月末に審議会を開き、生体吸収性ステント(BVS)の製造販売承認を認めるかどうかを審議します。順調に審議会の許可を取り付けることが出来れば、保険診療への申請手続きを経て、近い将来、特定保険医療材料として臨床現場に登場することになります。従来のステントと比べ、副作用も少ないとされていることから、臨床現場、開発企業、患者にとって待望の新製品といえるでしょう。
●薬剤溶出型ステント(DES)登場から10年超の歳月経る
冠動脈狭窄に対する血管内治療は、風船つきカテーテルで血管を拡げることからはじまり、金属の筒を留置し血管の狭窄を防ぐステント留置術につながっていきました。ステント留置術も、時を経るごとに進化を続けています。(1)単なる金属の筒、ベアメタルステント(2)ステント表面に塗布した薬剤が血管の再狭窄を防ぐ薬剤溶出型ステント-登場。後者が治療の主流となっています。
そして今回登場するのが、生体に吸収される素材に薬剤をしみこませたBVSとなります。DES登場から10年超の歳月を経て、新たなデバイスが日の目を見ることになる訳です。
●DESと同等の効果で副作用減
BVSは、DESと同等の治療効果がありながら、一定期間を経ると消失するため、体内に異物が残らないというメリットを併せ持ちます。その結果、血管内にステントという異物が残ることによる、ステント血栓症の発症低減、抗血小板薬の服用期間短縮などにつながる、との期待を集めています。
●公定価格は既存ステントの改良レベルにとどまるか
保険診療を目前に控え、今後焦点となるのは、どの程度の価格になるかということ。先日、厚労省の役人は、医療機器のイノベーションとは何か、よく分からないとの趣旨の話をしていました。具体例として、MRI撮像可能な心臓ペースメーカーやICDなどをあげ、「臨床現場の要望を受けた従来品の改良」として、高いイノベーションとはいえないとのスタンスを示しています。
この発言を踏まえると、BVSも“既存ステントの改良レベル”の評価にとどまりそうな気配です。ご存知のとおり、少子高齢化の進展で、医療保険財源は枯渇しております。今、巷をにぎわす高額薬剤の薬価引き下げ問題などを踏まえると、「ない袖は振れない」という厚労省などの論理は、一定の説得力を持っています。それを唯々諾々と受け入れなければならないのでしょうか。イノベーションを高く評価し、汎用品の価格を下げるといった、メリハリをつけた制度設計への脱皮に向け、医療機器業界の積極的な提案力が問われています。
【MEジャーナル 半田 良太】