2016.11.01
高度化・複雑化する医療機器を適正に使用するため、医療機器の流通業者は、手術室内で、その製品知識を活かして医療スタッフをサポートする立会いや、緊急手術などに備えて、医療機関に前もって製品を保管しておく預託在庫などの管理業務に汗をかいています。多品種少量生産の医療機器は、その製品特性から、異業種にはない特殊性があり、流通は非効率だとされます。厚生労働省は、医療機器の流通改善に関する懇談会(“機器版”流改懇)を5年3ヶ月ぶりに再開し、流通実態を再確認した上で、継続的に議論を重ねていくことにしました。
●16年度中に問題点を抽出 17年度以降に対応策を実施
再開の発端は、海外製品の医療機器の価格が高止まりしている、いわゆる“内外価格差”問題。厚労省で、少子高齢化の進展で医療保険財源が逼迫している中で、諸外国に比べて国内で高い価格となっている海外製品について、「複雑な医療機器流通が起因している」と指摘されたためです。以前のコラムで紹介したとおり、安倍首相も問題意識を示したことから、政府の経済財政諮問会議も、社会保障分野の改革工程表の中に、「医療機器流通の適正化」を盛り込みました。工程表では、2016年度中に、業界団体や個別企業にヒアリングして、改善が必要な問題点を抽出・対応策を検討し、17~20年度に実施に移すとされています。
●まずはバーコード整備で、電子商取引を推進へ
再開された“機器版”流改懇ではまず、世界標準のバーコード表示を徹底し、統一コードで、物流を効率化することから取り掛かります。2015年9月現在、医療機器全体では、販売包装単位で94.5%、最小包装単位で86.4%の製品にバーコード表示がされています。行政、業界とも100%目指して進めていくことで方向性は定まっています。
バーコード表示が徹底されれば、電子商取引に道が開くことになりますが、現在問題となっているのは、流通業者と医療機関の取引。とくに医療機器はアイテム数が多いため、発注窓口を用度に一本化できていません。異なる診療科の医師、数多くの部署から、電話やファックスで注文が殺到するため、電子商取引は進みません。SPDも、院内で独自コードを採用することも多いため、改善に向け、活発な意見交換が期待されます。
●特殊な流通実態の解明は
また“機器版”流改懇として冒頭で触れた立会い、預託在庫などの特殊な流通慣行については、どこまで踏み込んで検討を進めるのか、未だに方向性は定まっておりません。内外価格差の観点から、流通業界に対する再編を促し、そこで浮いたコストを、診療報酬の引き上げの原資とするよう迫る医師もメンバーに名を連ねていますが、本当にそうなのでしょうか。
5年3ヶ月ぶりに再開した“機器版”流改懇では、医療機器の流通を、特殊というだけで片付けるのでは意味がありません。本当に内外価格差の要因なのか、医療機器の適正な使用のサポートは必要なのか、業界再編は必要なのか、ひとつひとつ詳らかにした上で、議論を進めるべきでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】