2017.01.04
「2年に1回の薬価改定を毎年実施に改める」―。免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の高額な薬価の取扱いが契機となり、政府主導で正式に決定しました。「オプジーボ」は、悪性黒色腫の患者数をベースに、高い薬価を設定しましたが、患者数の多い肺がんなどでも使えるようになったため、通常の薬価改定を行う2018年4月を待たず、薬価を50%引き下げることにしました。政府の経済財政諮問会議は、薬価制度の不備でこうした事態が起きたとして、薬価改定の頻度を、現行の2年から1年に短縮するよう、厚生労働省に働きかけ、一定の条件を満たす医薬品の薬価を、毎年見直すことで決着しました。そのため、薬価同様、2年に1回の価格改定を行う、特定保険医療材料の取扱いをどうするのかという問題が、今後議論される可能性があるとみる関係者が少なくありません。
●販売額が高額、高い値引き率の薬価を毎年見直す
政府が決めた、薬価毎年改定の基本的な方向性は次の通りです。2年に1回は、現行通り、すべての医薬品の薬価を改定することを前提に、その狭間の年は、(1)「オプジーボ」のように一定規模以上に販売額が拡大した医薬品の薬価を引き下げる(2)一定以上値引きされている医薬品の薬価を引き下げる―という内容です。(2)を実現するため、2年に1回のタイミングで実施している薬価本調査を、全国展開している大手医薬品卸に対象を限定し、毎年実施するということが、骨格となります。詳細は今後、厚生労働省の審議会で詰めることになります。
●毎年改定は「薬価制度改革」のメニューのひとつ
ここで気になるのは、薬価とともに2年に1回引き下げられている特定保険医療材料の価格です。今回の薬価の毎年改定議論は、「薬価制度の抜本改革」のメニューのひとつに組み込まれたものです。ですから、特定保険医療材料の取扱いについては、全く考慮されないまま、薬価についてのみ結論が出ました。薬価の見直しに連座して、改定頻度を高めるかどうか、全く不透明な状況にあります。
●皆保険の持続性を揺るがす特定保険医療材料は存在するか?
政府がまとめた「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」をみると、革新的で、非常に高額な医薬品に対し、現在の薬価制度が柔軟に対応できていないことから、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立するために、見直しを行うとしています。こうした観点から、特定保険医療材料に与える影響を見ると、今後の方向性が見通せるかもしれません。
薬価の毎年改定は、「皆保険の持続性」を担保するための施策です。これに照らすと、国民皆保険を揺るがすような、高額な特定保険医療材料が存在するかという問題となります。実際に、「オプジーボ」などよりも単価の高い特定保険医療材料はいくつか存在しますが、対象となる患者がごくわずかで、皆保険を揺るがすようなものは、見当たりません。国内で最も市場規模が大きいとされるのは、薬剤溶出ステントだとみられますが、各社が展開する製品を総合計しても数百億円規模にとどまります。「オプジーボ」1剤の年間販売額が約1500億円(厚労省推計)ということを考えると、一桁違います。そのため、毎年改定議論の契機になった高額薬に見合う特定保険医療材料は存在しないといえます。
●特定保険医療材料価格の調査は5か月間かかる
次に、調査手法の違いがあります。薬価収載されている医薬品は1万数千程度ですが、特定保険医療材料は20~30万とも言われます。そのため、2年に1回実施する薬価本調査が1か月間に対し、特定保険医療材料は原則5か月間を要します。薬ほど使われる量が多くないため、調査期間を長く設定しなければ、市場での平均的な特定保険医療材料の販売価格が把握できないのです。薬価と横並びで特定保険医療材料も、毎年価格調査するとなると、特定保険医療材料の流通業者などは価格調査に忙殺されることになるのです。しかも、特定保険医療材料の流通業者は、医薬品卸のように全国展開しておりませんので、調査対象をどうするかという課題も横たわっています。
これらを勘案すると、特定保険医療材料についても毎年改定を実施するというのは、かなりハードルが高く、仮に実施したとしても“労(調査の手間)多くして益(医療費引き下げ財源)少なし”という結果に終わりかねません。医薬品と特定保険医療材料の特性に配慮して、慎重に議論を重ねるべきでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】