2017.07.03
安倍内閣が6月9日に閣議決定した、成長戦略「未来投資戦略2017」では、デジタル技術(IoT=モノのインターネット、ビッグデータ、人工知能=AI、ロボット)を駆使した、「健康寿命の延伸」を、最優先課題に位置づけています。健康寿命を延ばすため、現在バラバラになっている、健康、医療、介護情報を、生涯にわたって一元管理できるデータベースを構築することで、初診時や救急搬送時に最適な治療を、「いつでもどこでも」受けられる環境を整備します。さらにデジタル技術を活用し、かかりつけ医の対面診療と遠隔診療を組み合わせ、通院の負担を軽減することを視野に入れ、2018年度の診療報酬改定で、評価することも打ち出しました。
●「狩猟」「農耕」「工業」「情報」に次ぐ、“人類史上5番目の社会”の実現へ
未来投資戦略は、デジタル技術を駆使して、日本が抱える高齢化、労働人口の減少、エネルギー・環境問題などの解消と、日本経済の振興を両立させる、成長戦略です。政府は、高齢化などの社会問題について、「日本が世界に先駆けて直面する問題のため、デジタル技術を駆使して、解決策を講じることができれば、各種産業の成長、日本経済の振興につながる」と、ピンチでなくチャンスと捉えています。未来投資戦略では、デジタル技術によるイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることで、「狩猟」「農耕」「工業」「情報」社会に次ぐ、人類史上5番目の新しい社会「Society5.0」を実現すると宣言しました。
●デジタル技術駆使し、2025年に健康寿命を「2歳」延ばす
政府は、人類史上5番目の新しい社会「Society5.0」の実現に向け、重点分野に資源を集中投下する方針を示しています。具体的には、自動運転やドローン(小型無人機)による配送の実現、デジタル技術を活用した金融サービス「FinTech」などのメニューを用意しましたが、中でも、その一番目として「健康寿命の延伸」を掲げました。デジタル技術を駆使し、2020年までに、国民の健康寿命を「1歳以上」、25年までに「2歳以上」延ばすとしており、そのための具体策も盛り込んでいます。順に追って解説します。
●健康関連データの一元管理へ基盤整備
日本は、自営業、会社員、公務員などで加入する医療保険が異なるほか、患者が自由に受信する医療機関を選べるフリーアクセス制度を敷いていることから、検診、診療、介護などのデータが一元管理できていません。未来投資戦略では、バラバラのデータを一元管理できるデータベース「全国保健医療情報ネットワーク」を2020年度から本格稼働させる方向で、準備に入ります。これにより、初診時や救急搬送時などに、医療機関がこれまでの病歴などを瞬時に把握できるほか、患者本人が生涯にわたる健康情報にアクセスできるようになり、無駄な医療の排除にもつながるとしています。
●遠隔診療やロボット介護を18年度診療・介護報酬改定で評価
こうした基盤整備を進めるとともに、デジタル技術を最大限駆使し、医療の効率化、質向上につながる取り組みも紹介しています。
2018年度は、デジタル技術の活用した遠隔診療について、診療報酬で評価すると明記しました。かかりつけ医による「対面診断」と、オンライン診察を組み合わせることで、糖尿病などの生活習慣病患者に効果的な指導、管理につながるほか、血圧・血糖などを遠隔モニタリングによって、重症化予防にもつながるとみています。
さらに、①画像診断支援②医薬品開発③手術支援④ゲノム医療⑤診断・治療支援⑥介護・認知症-の6分野で、AI開発を進める方針も盛り込みました。例えば、膨大な画像診断結果(ビッグデータ)をAIに解析させることで、「正常な患者」と「がん患者」、「がんの疑いのある患者」を選り分けるといったことが可能になり、日常業務に忙殺されている医師をサポートするといったことを想定しています。
介護分野では、ロボット、センサー技術を用い、利用者の自立支援と、介護者の負担軽減の両立を目指します。18年度の介護報酬改定では、介護ロボットの導入を促すようなインセンティブを付与する方向性も示しています。
●スピード感もった対応が成否のカギ握る
日本は世界に先駆けて高齢化社会に突入する課題先進国で、公的保険制度(介護保険制度)でデータが豊富にあります。未来投資戦略は、まさにこうした周辺環境を整理し、潜在的な可能性がある分野をまとめて、“絵に描いてみせた”ものです。健康寿命の延伸と関連産業の振興が両立できるか、はたまた絵に描いた餅で終わるのか。行政によるスピード感のある環境整備と、民間企業の努力にかかっているといっても過言ではありません。
【MEジャーナル 半田 良太】