2018.04.02
既存の治療方法で、十分な効果の得られない重篤な疾患を抱える患者に対し、現在使用が認められていない製品への例外的なアクセスを認める「人道的見地から実施される治験」。カテーテルを経由して、大動脈弁を生体弁に置き換える「TAVI」に用いる「サピエン3」が、医療機器で初めてその対象となりました。これにより、重度の大動脈弁狭窄症を抱えているにも拘らず、TAVIが受けられなかった慢性維持透析患者でも、この治療をうけることができるようになります。
●開胸手術不可の患者へのTAVI治療は13年から保険適用
TAVIは、高齢などを理由に開胸手術ができなかった大動脈弁狭窄症患者に対し、カテーテルを経由して大動脈弁を交換することのできる、低侵襲治療。国内では2013年から保険での診療が認められ、現在、エドワーズライフサイエンスや日本メドトロニックが該当製品を発売するなど、活況を呈しています。ただ、慢性維持透析患者は、仮にTAVIで生体弁に置き換えても劣化が早いとされ、リスクの高さから、保険治療の対象からは外れていました。
●透析患者への治験開始で対象外患者の治療に壁
とはいえ医療現場では、慢性維持透析患者のTAVIによる治療ニーズが高いことから、いわゆる混合診療である「先進医療」として、限られた医療機関で、安全性と有効性を検証しながら治療をすることができるようになっていました。こうして実施された先進医療で一定の成果が確認できたことから、慢性維持透析患者でも保険診療を可能とするための治験にステップアップ。先進医療は治験が始まると、被験者以外は受けられなくなるという制度的な建てつけがあるため、治験から外れた慢性維持透析患者は、保険で認められるまでの間、TAVIが受けられないという「タイムラグ」が発生することになったのです。
●治験実施と保険までの間を埋める
そこで、「サピエン3」の発売元のエドワーズライフサイエンスは、「人道的見地から実施される治験」という枠組みを利用し、慢性維持透析患者における代替治療のない大動脈弁狭窄症例に対し、保険が認められるまでの“つなぎ”として、TAVIによる治療を受けられるよう申請、受理されたということです。
●治療後の将来的なQOL、生命予後に厳しい眼
人道的見地からの治験により、大動脈弁狭窄症を抱える透析患者が、TAVIを受けることができるのは、すばらしいことです。ただ同時に、治療後のQOLや生命予後についても厳しい視線が注がれることになります。
TAVIによる治療は、低侵襲で“患者に優しい”ですが、特定保険医療材料価格だけでも400万円超で、“医療保険財政にとって厳しい”ことでも知られます。安易に保険診療とすることは厳に慎まなければなりませんので、透析患者に対する治験の成績が良好で、将来的に、治療後の健康寿命を延ばすことが証明できるよう、切に祈念します。
【MEジャーナル 半田 良太】