2018.06.01
今年4月の診療報酬改定で、前立腺がん、腎がん部分切除にとどまっていた、ロボット支援手術「ダヴィンチ」の保険適用の範囲が、胃がんなど12件に拡大されました。手振れ補正機能などを搭載した「ダヴィンチ」の手術は、医師の負担軽減などにもつながるとされ、普及に向けてまた一歩、歩みを進めたといえます。国内でも、ダヴィンチのほかにも、手術ロボットが相次いで誕生しており、公的保険で治療が受けられる日も近づいております。今回のコラムでは、国内で登場間近の手術ロボットの紹介と、保険診療上の課題を整理してみます。
●被ばく防止のPCI用ロボットも販売目前
血管が狭くなった冠動脈に対し、太ももの動脈などからカテーテルを通じて網状のステントを留置したり、風船で狭窄部位を拡張したりする、PCIと呼ばれる治療。現在は医師が、X線で透視画像を見ながら、カテーテルを操作して治療を進めていくのですが、被ばく防止のために着用するX線防護用プロテクターなどは重く、作業負担となっています。
そこで誕生したのが、「CorPath GRX」(日本メディカルネクスト社)です。ガイドワイヤーやステントなどを「遠隔操作」することが可能な手術支援ロボットで、被ばくリスクから医師を守ります。現在、厚生労働省の専門部会が、医療機器としての製造販売を認めても差し支えないと結論づけており、承認取得目前までこぎつけており、保険診療として受けられる日は、そう遠くないでしょう。
●整形領域で複数のロボット 脳神経外科の検査でも
整形外科領域でも、ロボット手術が目前に迫っています。人工股関節置換術用のロボット「MAKO」(日本ストライカー)がその一つです。ロボットのアームによる、視覚的・聴覚的なガイド、触覚的なサポートなどが受けられ、人工関節を望ましい場所・角度に、高い精度で設置することができるとうたっています。すでに昨年10月、厚労省から医療機器としての製造販売の認可を受けており、臨床現場での使用は目前に迫っています。
整形外科領域での使用も見据えた「ROSA」(ジンマー・バイオメット)は、まず脳神経外科領域から臨床現場に登場することになりそうです。薬が効かない難治性のてんかんの治療を、低侵襲で正確に、短時間で行えるといいます。さらに、整形外科領域で、脊椎固定術の位置決めにも使えるほか、人工膝関節置換での開発も進めており、医療機器としての製造販売を求め、今年度中にも厚労省に申請するといいます。
●普及のカギは、有効性、安全性の立証
ダヴィンチをはじめ、ロボット手術花盛りといえそうですが、普及に向けては、保険診療上の問題をクリアしなければなりません。例えば、4月から胃がん手術でダヴィンチを使うことが保険上認められたわけですが、診療報酬上の評価は、既存の治療と同じとなりました。つまり既存の手術に比べて、有効性があるとは認められなかったということです。今後は保険診療で、実績を積み上げ、有効性を証明し、点数アップを目指すことになります。
これから保険診療を目指す手術ロボットも、保険上の評価が十分でなければ、全国に普及・拡大していくかは不透明といえそうです。ロボットによる手術は、国民や患者の期待感を高めますが、高齢化で財源が枯渇している中では、既存の治療と比べ、治療成績がよい、安全性が高いといったエビデンスを示す必要があり、冷静な視点で評価されることになります。医療機器メーカーや開発に携わる医療従事者は、医療界で注目される、「費用対効果」が優れているということを、ここでも立証しなければなりません。
【MEジャーナル 半田 良太】