2018.07.02
高齢化の進展や、生活習慣病の増加で、腎機能が低下し、透析を必要とする患者が右肩上がりで増加しています。一定程度、腎機能が低下した際の治療は、他人から腎臓をもらう腎臓移植、血液をろ過して不純物を取り除く血液透析(HD)、自分の腹膜を利用して不純物を取り除く腹膜透析のいずれかを選択することになります。移植医療が未成熟な日本では、移植医療はほぼ選択肢になりえず、実際のところ、HD、PDのいずれかをチョイスすることになります。国内では、90%超がHDを選択しています。
●国内の透析医療はHD90%超
HDは、自身の血液をダイアライザーという膜に通し、不純物をろ過する医療行為。多くの治療系医療機器は海外製品で占められる中、ダイアライザーは国内勢が存在感を示している数少ない分野です。国内でHDを選択する患者が大半を占めることは、産業政策上は喜ばしいことかもしれませんが、果たして90%超もHDを選択している現状は妥当なのでしょうか。
●PDはQOL高く、残存腎機能も活用可能
HDは専門の医療機関に週3回程度通い、数時間かけて、血液をろ過します。一方のPDは、原則として自宅で就寝時を中心に毎日、自分の腹膜を使って不純物を取り除きます。HDは、治療で拘束される時間はPDよりも短時間で、作業は医療機関にお任せすることができます。一方のPDは、透析液の交換や、そのために留置したチューブの清掃を、自分で行わなければならないというわずらわしさがある一方、日中、治療で拘束されずに済み、仕事を続けやすく、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)は高いとされています。さらにHDでは不可能な、わずかに残る腎臓の機能も活かすことができます。
●PDの説明は手間 医療機関への評価も不十分
なぜPDが浸透しないかというと、医療スタッフが患者に説明する時間や手間がかかるにもかかわらず、診療報酬で十分評価されていないためです。そのため、数の限られた医療スタッフが患者への説明に時間を割くことができず、結果として、患者への認知度が低迷していることにつながっているとされます。患者は腎機能が低下し、透析が必要だという事実を前に思考停止になり、国内での治療の主流であるHDを盲目的に選択する傾向もあるようです。
●診療報酬改定でPDの説明・治療実績を評価
厚生労働省は、そうした現状を踏まえ、4月からの診療報酬改定で、透析医療を必要とする患者に対し、PDを含めた治療法について、患者に説明した場合、診療報酬点数を付与することにしました。一定以上、PD治療の実績がある医療機関を、これまで以上に評価するなど、「適切な腎代替療法の推進」に向けて、診療報酬を見直しました。透析医療に従事するドクターは、さらなる診療報酬の引き上げが必要との立場を崩していませんが、今回の改定の方向性を歓迎しています。
●次期改定で、遠隔診療の対象となるか?
さらに、2020年度診療報酬改定に向けてICT(情報通信技術)を駆使した、遠隔診療を活用すれば、きめ細やかなPD治療ができると期待感が高まっています。現在、自宅で心臓ペースメーカーを装着する患者や、在宅酸素療法を受ける患者に対し、ICTや情報通信機器を駆使し、遠隔診療を行った場合、診療報酬で評価されています。PD患者に対しても、ICTで患者の状態を把握したうえで、透析液の量や種類を変更することは、現時点の技術でも可能。これを診療報酬点数の対象とすれば、患者のQOLは高まり、PDの普及につながると期待されているのです。
一度HDの治療を開始すると、PDに戻ることはできません。すべての患者がPDによる治療がふさわしいわけではありませんが、実施可能な症例では、まずPDから治療を始めることで、社会復帰率を高め、納税者として活躍してもらうことが、トータルとして社会保障制度を持続可能なものにするという主張は、一定の説得力があるように聞こえます。
【MEジャーナル 半田 良太】