2018.10.01
厚生労働省(以下、厚労省)は、病気でも可能な限り住み慣れた地域で生活することを目標とする、地域包括ケアシステムの構築を急いでいます。かかりつけの医師が中心となり、医療や介護と連携して、高齢患者が安心して自宅で最期を迎えることができる仕組みづくりです。ただ、患者本人が望んでも、家族の受け入れ態勢が整わないケースや、在宅医療にかかわる医師や看護師や、訪問診療を提供する医療機関の数が不足していることなど、課題は山積しています。ただ、団塊の世代が75歳以上を迎える2025年を控え、もう残りわずか。様々な課題にチャレンジし、クリアしていかなければ、急速に進む少子高齢化を乗り越えていくことはできません。
●在宅医療で欠かせぬ医療機器の実用化調査に注目
在宅医療では、携わる従事者やサービスの確保、家族の受け入れ態勢などに注目が集まりますが、生活の場である自宅で医療や介護を受けるため、そこで用いる医療機器にも工夫が必要。在宅医療を推し進めていくうえで欠かせません。そこで、約5年前に厚労省が実施した、「在宅医療における医療機器等のニーズ調査」報告書が、ここにきて注目を集めています。
●患者利用は音声や光のサポート 従事者向けは小型・軽量化がニーズ
報告書の内容を振り返ります。報告書は、在宅療養支援病院・診療所や、訪問看護ステーションなどから、在宅医療で使用する医療機器のニーズを取りまとめ、医療機器メーカーに情報提供することで、機器の開発や改良につながることを目指したものです。
例えば、利用頻度の高い機器として、小型、薄型で安価な自動解析機能付きのパルスオキシメーターや、ポータブル心電図、電子カルテと連動して記録・保存可能な通信機能付きの検査機器などの開発を求める声が寄せられました。
さらに、在宅医療の特徴としては、高齢の患者本人や家族が医療機器を操作するケースが多い点に配慮した製品開発も求められました。こうした医療に精通していない患者、家族でも、操作しやすい音声ガイド・サポート機能や、光によるアラート機能の付与、そのほか無痛化など、在宅医療機器ならではの工夫が求められていることが、報告書で顕在化しました。
●災害対応機器の開発に期待感高まる
ここにきて注目が高まっているのは、災害対応の在宅医療機器。異常気象によるゲリラ豪雨や台風、震災などの災害が急増しており、そうした緊急時対応の医療機器開発に期待が高まっています。報告書では、ポータブル喀痰吸引器の吸引力強化や、停電対応型の充電式の酸素濃縮装置の開発などを取り上げています。今年に入って、西日本豪雨や北海道での地震などが発生しており、厚労省も、在宅酸素療法を受ける患者に支障が出ていないか、ことあるごとに確認を余儀なくされています。災害時、停電時対応の機器開発については、よりニーズが高まっていることは間違いありません。
●使い勝手の良い在宅機器開発にインセンティブを
業界は、今年の9月に、在宅医療機器の開発にインセンティブをつけ、製品化を促す必要があるのではないかと、厚労省に提案したということです。こうした在宅医療を支える医療機器は、「これまで治療できなかった患者を救える」といった派手さはありませんが、慢性疾患を抱えた患者が、自宅で生活を送ることができるように支える「縁の下の力持ち」としての役割を果たす、重要な役割を担っているのです。とくに日本の企業は、きめ細やかさや使い勝手など、かゆいところに手の届く配慮は得意分野といえます。製品化に期待しています。
【MEジャーナル 半田 良太】