2018.11.01
安倍晋三首相は2019年10月に、消費税率を現行の8%から10%へと引き上げることを、改めて表明しました。診療報酬改定は2年に1回が原則で、例年通りなら2020年4月となりますが、保険診療は消費税非課税となっていることから、患者から徴収できない消費税分を、診療報酬に上乗せする必要があります。さらに、薬価や特定保険医療材料価格についても、増税分の上乗せと、市場実勢価格による引き下げを実施する方針が示されており、今後様々な議論が、重ねられていきます。
●診療報酬では「基本診療料」への上乗せが有力視
診療報酬については、5%から8%への引き上げ時も、初診料や再診料、入院基本料などの「基本診療料」を中心に上乗せしており、今回もその方針を踏襲することになりそう。CTやMRIなど、高額な医療機器などの購入に関連した個別点数への上乗せは見送られる公算が大きいです。個別の点数に上乗せすると、診療報酬改定でその点数が廃止されるケースがあり、のちに十分な額をあてがっていたのかどうか、検証できないという懸念から、基本診療料への対応が有力視されています。
●前回増税時の補填不足の“穴埋め”をどうつけるのか
実は、2014年4月に実施された消費税の5%から8%への引き上げ時に、増税分を診療報酬に十分上乗せできていなかった事実が最近判明しました。19年10月の消費増税に向けては、その“穴埋め”をどうつけるのかということに注目が集まっています。ちなみに厚生労働省は、5%から8%への引き上げの際、病院に対する増税分の補填率が
100%を超えているとしていましたが、集計ミスが発覚。16年時点で補填率は85%にとどまっていたことが明らかになっています。
●医薬品、特材の市場実勢価格を「いつ反映するか」
もう一つの焦点は、薬価と特材価格への増税分の上乗せです。厚労省はすでに、18年度分の医薬品、特材の取引について、市場実勢価格調査に着手しており、「増税分の上乗せ+実勢価格による引き下げ」を実施する方針を示しています。議論の焦点になっているのはその実施時期。実勢価格による引き下げを増税対応と同時の19年10月にするのか、前倒して新年度となる同年4月にするのか。さらに19年度分の市場実勢価格調査と、それに基づく改定についても、整理が必要になっています。
●煩雑な特材調査の取り扱いは?
さらに、医薬品と比べて調査期間が長く、煩雑な、特材の価格調査、改定をどのように行うのかということも、課題とされます。本当に医薬品と同様の取り扱いが可能なのでしょうか。
医薬品は約1万6000品目ですが、特材は約20万品目と膨大です。一定の取引数量を確保し、平均的な市場実勢価格を把握するため、調査期間は医薬品の5倍である5か月間にのぼります。さらに、特材の価格調査が煩雑なのは、医薬品のように、単品で販売されるものばかりではないということです。
「中心静脈カテーテル」では、公定価格が定まっている特材と、一連の医療行為に必要なメスや固定具、三方活栓などの付属品を、セットで販売しています。つまり特材単体で販売していないので、特材分と付属品分の按分割合を決め、特材の市場実勢価格を割り出さないといけないのです。価格調査にかかわるメーカー、流通業者、医療機関に重い負担がのしかかるのです。市場実勢価格調査は、国民負担の軽減につながるわけですが、その結果、医療提供に支障をきたす可能性があります。とくに流通業者は、医療現場で、特材を含めた医療機器の適正な使い方をサポートしているほか、製品の安定供給を通じ、医療に貢献しているわけです。市場実勢価格にあたっては、本業での彼らの貢献にも配慮する必要があるのではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】