2018.12.03
遺伝子診断などの医療の高度化により、患者の特性に応じた、最適な治療を提供できる個別化医療が進んでいます。とくに抗がん剤は、薬価が高騰していることから、遺伝子を調べ、効果の期待される患者に絞って処方することが、ひっ迫する医療保険財政面からも、強く求められています。そうした中で課題となっているのが、高額な医薬品が薬価収載されていても、対応する体外診断用医薬品や、遺伝子診断・検査などが保険収載されていないというタイムラグの発生です。遺伝子検査に必要な製品は、その特性に応じて、体外診断薬、医療機器として保険適用されるため、薬価収載と適用されるルールが異なり、それが時間差を生んでいるのです。
●薬・体診・機器で異なる保険収載ルール
医薬品は、製造販売承認を取得してから原則60~90日で薬価収載するルールで、薬価収載の月は2、5、8、11月と定められています。
これに対し、新しい検査方法となる、イノベーティブな体外診断薬や医療機器は、新薬と比べて規定が緩やか。体外診断薬は、保険適用希望書を提出してから約6ヶ月後までに保険適用することにするルールで、保険適用の時期は、中医協での了承を取り付けた翌月1日付。医療機器は、保険適用希望書を提出してから約5~6ヶ月後までに保険適用するルールを採用、保険適用は、3、6、9、12月の各1日付です。つまり、製品ごとに異なるルールを採用しているため、個別化医療で必要となる、新薬と体外診断薬、医療機器を同時に収載することが難しいのです。
●キイトルーダと体外診断薬は同日付の保険収載という異例の対応
厚生労働省も座視しているだけではありません。高額な抗がん剤「キイトルーダ」の薬価収載日と、「キイトルーダ」が最も効く可能性のある患者を抽出するために用いる体外診断薬PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」の保険適用の日付を、同日付(2017年2月15日)とするという、特例的な対応を取りました。「キイトルーダ」は、「オプジーボ」の競合品で、薬価収載当時、高額薬剤について注目が集まっている時期でもあり、異例の対応をとりました。
もし既存のルールを当てはめていれば、保険適用は「キイトルーダ」が2月15日付で、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」は3月1日付でした。厚労省は「キイトルーダの登場を切望する患者が、保険診療で使えるように、ルールを曲げてダコの保険適用日を前倒す」と、機転を利かせました。ただこれは、異例の対応ですので、個別化医療の伸展が予想される中で、何らかの見直しが求められるでしょう。
●適応拡大などへの対応も必要
さらに、新薬だけでなく、既に薬価収載されている医薬品が、適応拡大されたケースも出てきています。一例をあげると、BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対し、治療薬「タフィンラー」「メキニスト」の併用療法が、保険診療として認められたのですが、それを診断するシステムが、保険適用されていませんでした。
薬剤を提供するノバルティスは、保険適用までのタイムラグを埋めるため、診断システムを無償で提供。約半年後の今年12月1日の診断システムの保険適用日まで、企業が負担することになるとみられています。
こうしたタイムラグを埋めるため、企業が保険で使えない検査を無償提供する例は、他にも存在します。
さらに今後、技術の進歩で、診断・検査のアプローチも多様化し、特性に応じて体外診断薬、医療機器と見なされて、保険収載されていくことになるでしょう。そうなると、薬が保険で使えても、検査、診断の保険適用を待たなければならないという事例が、今後も出てくるでしょう。特例的な対応では限界がありますので、何らかの解決策を模索する時期に、差し掛かっているのかもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】