2019.04.01
いわゆる“団塊の世代”が75歳以上の後期高齢者を迎える2025年を見据え、厚生労働省は、医療機関の機能分化を進めるために「地域医療構想」を打ち出し、2年に1回の診療報酬改定などを通じて、政策誘導も進めていることはよく知られています。ただ最近は、医療・介護水準の向上などにより、今や人生100年時代と叫ばれる中、団塊の世代の子供たち、“団塊ジュニア”までもが高齢者となる2040年こそ、実は社会保障制度のターニングポイントになると注目を集めています。
●人と先端技術の共生目指した「未来イノベーション」を志向
厚生労働省と経済産業省は、40年の超高齢化社会を見据えた対策の必要性を痛感、両省が今年に入り、未来イノベーションワーキンググループを立ち上げました。とくに、健康・医療・介護については、現役世代1.5人に対し高齢者が1人という急速な高齢化に伴い社会保障費が一層増加すると想定。さらに就労世代の減少による労働力不足、地方での病院、介護事業所の撤退などのリスクも列挙しました。
こうしたリスクを解消するため、IoT、AI、ロボット技術などのイノベーションを活用した、「人と先端技術が共生する未来の医療福祉分野の在り方」について、3月に中間とりまとめを発表しました。
●予知・予防技術進化で患者の行動変容に期待
健康・医療・介護分野でのイノベーションについては、「医師が治療や診療をしやすくなるもの」から「予兆の検知や予防」に広がると想定。AIによる疾患の事前予測などをあげています。
IoT、センサー技術を駆使したスマートTシャツなどの登場で、さまざまな生体情報をリアルタイムで把握することができるようになると予測。これにより、患者自らが生活習慣を改め、食事内容の見直しや積極的に運動するといった行動変容にもつながりやすいとしています。米国でのソーダ税の導入や英国の減塩戦略、健康増進に取り組むと生命保険料が軽減される健康増進型保険の登場なども手伝い、患者の行動変容にも拍車がかかるのではと見通しています。
●遠隔診療の進展に向けた技術革新も
また遠隔診療でも、心疾患診断アシスト付きの聴診器など、住まいの場所によらず、リアルタイムで専門医の診断を受けられるような技術も開発中です。このほか、痛みを感じる義手の開発も進むほか、ペースメーカーなど体内に植え込んだ機器については、電池を搭載するスタイルから、遠隔給電による小型化が可能になるなど、機器自体のイノベーションも進むとしています。
●課題山積の母国市場を活用せよ
政府は医療関連産業を、次代の日本経済けん引役として期待しています。当初は、世界に冠たる日本のモノづくり技術をいかに侵襲的な治療分野で活かしていくかという問題意識も強かったように感じますが、今回の中間とりまとめにあるIoT、AIなどのほうが、日本企業にとって親和性の高い、取り組みやすい分野かもしれません。先進国に先駆けて進む超高齢化社会という日本市場は、国内企業にとって山積する課題の抽出とソリューション開発の宝の山。こうした母国市場を抱えるメリットを生かし、デジタル技術で優位に立つ米国、中国などの企業へのキャッチアップを期待します。
【MEジャーナル 半田 良太】