2021.05.06
国内で、便潜血検査で陽性になった約4割の受診者が、追加の検査を受けず、そのまま放置しています。肛門から内視鏡を挿入する抵抗感などを理由に、必要な検査から足が遠のいているのが実情のようです。口から飲み込むだけの大腸カプセル内視鏡は、効果的なツールと言えそうです。
●大腸がんは、部位別のがん死亡率・罹患率でワーストクラス
厚生労働省の人口動態統計によると、国内での部位別のがん死亡率(2015年)をみると、大腸がんが2位にランクインしています。そして女性の部位別死亡率のワーストは、大腸がんとなっています。
がん診療連携拠点病院等の院内がん登録(2018年)の集計報告書では、部位別のがん罹患率トップが大腸がん。遺伝性の大腸がんも多く、食生活の欧米化なども踏まえると、大腸がんが減少する要素は少ないとみられています。
●便潜血未受診の理由は「恥ずかしさ」が多い
国内では、職域、人間ドック、市町村で検診(便潜血検査)を実施し、陽性者には、追加の検査を求めることになります。
国内での問題は、比較的現役世代の多い職域、人間ドッグでの検診受診率は60%台で推移する一方、罹患リスクが高い高齢者の多い市町村検診では約30%と、半分以下になっている点です。
そして一番の課題とされるのが、便潜血検査の陽性者の約4割が、大腸内視鏡検査やCT検査、バリウム造影検査などを受けないことです。いずれの検査も肛門からのアプローチやガス注入などを行うため、「恥ずかしさ」を理由に二の足を踏むとされています。とくに女性の大腸がん死亡率がワースト1となる「大きな理由」とみられています。
●カプセル内視鏡でも、大腸内視鏡検査に迫る診断能
そこで期待を集めるのが、大腸カプセル内視鏡です。6ミリ以上の悪性腫瘍に対する感度(陽性率)は84~94%。さらに、1秒間に最大35枚撮影可能で、カプセルの両端についたカメラは170度の視野角で腸粘膜襞の裏まで撮影できるため、一部では大腸内視鏡検査を上回る性能も備えていると言われます。
ただ大腸内視鏡検査は、画像が鮮明で、仮に悪性腫瘍が疑われる場合でも、検査時にそのまま組織生検(組織の一部を採取して、病理診断を行うこと)することも可能であり、大腸がん診断の検査としては、よりふさわしいツールと言えるでしょう。しかし便潜血検査で陽性となった際の追加検査としては、アクセスのしやすいカプセル内視鏡で、事足りるのかもしれません。
●予防医療や健康維持へのインセンティブの検討を
大腸カプセル内視鏡は、2014年に保険適用されましたが、腸の癒着などで内視鏡検査ができない患者に限られていました。昨年4月の診療報酬改定で、高血圧などの慢性疾患患者に使用できるようになりましたが、適用範囲はまだまだ狭いです。保険診療は、既存の治療法(診断法)と比べて同等以上の性能・機能が求められるため、一足飛びに全ての患者に使うというわけにはいかないでしょうが、検診の世界では多くの活躍の場がありそうです。
とくに国内の便潜血検査で陽性のまま放置している方に、大腸カプセル内視鏡を積極的に活用すれば、重症化する前に早期発見・早期治療につながり、医療経済的にも優れたツールになることは、間違いないと思います。
検診では一部自治体等の補助などがありますが、予防医療の世界は、保険診療と比べ自己負担が多くなるケースがあります。しかし、早期発見できれば、外科手術や内視鏡での切除も不要で、トータルの医療費負担は少ないとの見方もできます。こうした点については、カプセル内視鏡以外にも、多くのものが当てはまると思います。
月並みではありますが、少子高齢化でひっ迫する医療保険財政を踏まえ、予防医療を公的保険でどのように扱うか、また、医療保険のお世話にならず、健康体で居続ける人へのインセンティブ付けなどを、議論する時期なのかもしれません。
【MEジャーナル 半田 良太】