2021.07.01
厚生労働省は2017年7月末、1度使用したら廃棄する単回使用医療機器(シングル・ユース・デバイス=SUD)を分解、洗浄、滅菌して再び使用することを許可する「再製造SUD制度」を導入しました。制度創設から約4年弱で、不整脈の検査などで使われる「EPカテーテル」が既に保険診療で使用され、今年2月現在で、日本ストライカー1品目と、ホギメディカル3品目の計4品目が薬事承認を取得するなど、徐々に広がりを見せています。そうした中、政府が6月に閣議決定した「規制改革実施計画」の中で、「再製造SUDの普及」が新たに盛り込まれました。
●再製造SUDはSDGsなどの時流に乗った制度
診療報酬の相次ぐ引き下げなどで病院経営が厳しさを増す中、勝手に感染リスクが低いと判断した使用済みSUDを、院内で消毒、滅菌して再利用していたことが社会問題化していたことから、国が再製造の基準を作り、お墨付きを与える再製造SUD制度が創設されたことは、以前のコラムでも紹介しました。環境保全の観点から、レジ袋が有料化されるなど、SDGs(持続可能な開発目標)が声高に叫ばれており、医療界でも資源の有効利用の観点から、時流に乗った施策ともいえそうです。
●産廃業の許可がないと使用済みSUDを運搬できない
そうした中、現在、政府が問題視しているのは、再製造SUDのもとになる、使用済みSUDを回収する際の運搬時の規制です。
廃棄物処理法では、(1)「物の性状」(2)「排出の状況」(3)「通常の取り扱い形態」(4)「取引価値の有無」(5)「占有者の意思」の観点から、廃棄物に該当するかどうか、地方自治体が総合的に判断すると規定しております。そのため一部の都道府県などが、再製造SUDの原料となる使用済みSUDを、「感染性廃棄物(以下、廃棄物といいます)」に該当すると判断し、産業廃棄物処理業者の許可を持たない業者でなければ、回収・運搬を認めないと判断しているというのです。
●9自治体が使用済みSUDを「廃棄物」扱い
業界団体の単回使用医療機器再製造推進協議会によると、126の中核都市のうち、茨城県、川口市、富山県、石川県、長野県、大阪府、奈良県、鳥取県、鳥取市の9自治体が、再製造SUDの原料となる使用済みSUDを廃棄物とみなしているといい、製品の安定供給が難しくなっていると、政府に訴えたのです。
政府が求めているのは、廃棄物規制法を厳格に運用し、使用済みSUDを廃棄物として取り扱っている自治体をなくすような規制緩和です。環境省はこうした訴えを受け、使用済みSUDについて、医薬品医療機器法を優先的に適用し、産廃業社の許可がなくても、医療機器製造販売業者などが適切に管理することで、生活環境を汚染することはないと判断。現行の規制を見直す方向で、規制緩和に舵を切る方向で、厚労省と共に検討を進めます。
●急がば回れの精神で制度定着を図るべき
これにより、使用済みSUDの回収の足かせとなっている規制にメスが入り、安全で安価な再製造SUDが普及することは、国民にとってメリットが大きいと思います。ただ再製造SUDについては、やみくもに品目を拡大していくのではなく、感染リスクが低い製品であることを慎重に確認したうえで、徐々に進めていくべきでしょう。
後発医薬品に目を移すと、医療費抑制の観点から、政府が普及に向けて高い目標を設定し、診療報酬などで使用を促し続けた結果、メーカーがキャパシティーを超えて対応することになり、健康被害を引き起こした事件が発生したことは記憶に新しいです。
医療費削減を旗印に、「デバイスジェネリック」などと喧伝し、再製造SUDを普及させようとの声もあるようです。今回の規制は緩和すべきだと思いますが、品目を安易に拡大するのではなく、「急がば回れ」の姿勢で、石橋をたたいて渡ることが、制度の定着の近道ではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】