2021.08.02
狭心症や心筋梗塞などにより、血流が悪くなった冠動脈を拡げるため、血管に留置する「冠動脈ステント治療」は、身体へのダメージが少なく、再狭窄を防止できる高い治療効果が見込めるとして、幅広く浸透しています。
こうしたステント治療は進化を続け、金属製の製品(ベアメタルステント=BMS)から始まり、ステント表面に
血栓を溶かす薬剤をコーティングした製品(薬剤溶出性ステント=DES)に移行するなど、様々な改良が施されています。今紹介したBMSやDESは体内に“異物”として残り続けますが、一定期間後に体内で分解・消失する「生体吸収性ステント」(BVS)が、大きな期待を受けて登場しました。しかし、国内での保険適用からわずか数カ月後の2017年9月に、ひっそりと販売を終えました。
製造販売業者は「販売低迷」を理由に挙げますが、実際は、試験でステント血栓症の発生リスクの高さが明らかになったからだそうです。ただ生体吸収性のステントの優れたコンセプトと、ポテンシャルの高さを理由に、開発を続ける企業が存在することから、技術革新を通じて、問題点を解消した次世代の登場が待たれます。
●革新的な製品の“ネガティブ情報”「一般に周知すべきか」
今回のコラムでは、革新的な医療機器のこのようなポジティブではない情報について、どのように開示するのか、また、する必要があるのかをテーマに取り上げます。実は私自身、専門分野の取材をしている立場で大変恥ずかしい限りですが、生体吸収性ステントの販売中止を最近になって把握しました。
生体吸収性ステントは、一般メディアも“消えるステント”として取り上げ、世間一般への認知度は非常に高かったと記憶しています。企業側も、保険適用などの際にPRしましたが、販売終了の情報公開は“ひっそりと”行い、プレスリリースとして出した形跡もありません。
もちろん販売終了の情報は、製品納入済の医療機関に対応しているので、生命関連製品を扱う企業として、最低限の役割を果たしています。ただ企業のホームページには販売終了の情報こそ掲載されておりますが、簡単には見つけられません。企業は利益追求が一義的ですので、自社のメリットとなる情報を積極的に公表する一方、ネガティブな情報の開示はひっそりと行うことは、ある意味やむをえないかもしれません。
今回は、不幸にも期待する結果が得られなかったわけですが、低侵襲治療に果敢にチャレンジした企業の姿勢には拍手を送りたいですし、これからも様々なことに挑んでもらいたいと願います。
ただ公的保険で使う製品は、税金や保険料が投入されています。とくに革新的な製品であれば、既存の製品よりも公定価格を高く設定するので、“値決め”の際に、厚労省の審議会で資料や審議内容が公開されます。
生体吸収性ステントは、留置してから3年かけて消失するため、その使用実績に基づいてエビデンスを積み上げ、公定価格のさらなる引き上げを求めていました。高い公定価格がつき、使用実績を踏まえてさらなる上乗せ評価を求めていた製品ですから、医薬品医療機器の安全性を所管する公的機関が、その後の動向について、一定の情報提供を果たしてもよかったように感じます。
【MEジャーナル 半田 良太】