2022.02.01
保険適用された医療機器が、期日までに製品開発が間に合わずに供給できないという、異例の事態が発生しました。その製品は、2021年12月1日に保険適用が決まっていた「オンコタイプ DX 乳がん再発スコアプログラム」。厚生労働省は、二度とこうした事態を起こさないため、プログラム医療機器について、開発が完了していなければ、今後、企業からの保険適用申請を受け付けないよう制度を見直し、再発防止を図ることにしました。
●術後乳がん患者への化学療法の要否を判定
「オンコタイプ DX 乳がん再発スコアプログラム」は、早期の乳がん患者の腫瘍組織を採取し、「再発スコア」を算出するもの。手術で腫瘍を摘出した早期乳がん患者の多くは、これまで再発予防を目的として、術後に化学療法を受けてきましたが、このプログラムを使うことで、「本当に化学療法が必要かどうか」という客観的なデータが示されることで、患者に対する過剰診療、過少診療が避けられると期待されていました。
●内部での情報共有不備で「開発が間に合わず」
保険適用日に供給できないとは、何が起こったのでしょうか。
「オンコタイプ DX 乳がん再発スコアプログラム」は、クラウド上に存在するメインの「解析プログラム」と、そこにアクセスするための「日本ポータル」で構成。「日本ポータル」から「解析プログラム」に検査依頼をかけ、「再発スコア」を算出するという流れで使用します。
厚生労働省やPMDAは審査の過程で、「解析プログラム」が問題なく「再発スコア」をはじき出すことができるかどうか、に主眼を置いたようです。「日本ポータル」の審査では、ここを経由して検査依頼した結果と、経由せずに「解析プログラム」から得た結果を比較することで、「正常に作動すること」を確認したそうです。「日本ポータル」は、審査のために検査対象患者を限定するよう改変していたため、臨床現場での使用には、そうした制限を解除する必要があり、厚労省がプログラム変更を指示していましたが、企業内部での情報伝達に不備があり、プログラム改変に伴う動作確認試験が保険適用までに間に合わなかったということです。
●開発未了のプログラムを承認、保険適用のあるべき姿は?
保険適用の可否を審議する、厚生労働省の審議会では、保険適用日までに製品開発が終わっていない事態に、医療提供、医療保険者サイドの委員、双方から、強い問題意識が示されました。「そもそも、製品の開発が済んでいないものを、承認し、保険適用してしまってよいか」という疑問も投げかけられました。
これまでの医薬品や医療機器であれば、製品開発が終了していなければ、臨床試験が実施できず、有効性や安全性を確認することができません。ただ今回のプログラム機器は、「審査の過程で『解析プログラム』の有効性、安全性を確認している」として、アクセスが目的の「日本ポータル」のプログラム開発が終わっていなくても、承認して差し支えないと判断したのです。
●プログラム機器“黎明期”ならではの問題だった
今回の事態に対する厚労省の判断に問題は感じられず、企業内部の風通しが悪かったことが原因ではないでしょうか。プログラム医療機器が単独で医療機器となったことの黎明期に起き得る問題だったともいえそうで、「開発が終了していないものは、保険適用の申請ができない」と制度を見直したことも、妥当な判断だったと思います。
今後は技術革新により、AI(人工知能)やアプリなどのプログラム医療機器の登場が相次ぐと予想されます。その用途も、治療や診断、診断の補助と、多岐にわたることが想定されるため、プログラム医療機器の適切な審査、保険適用の在り方を再規定する意味で、今回の事例は、良い機会だったと、前向きに捉えることができるかもしれません。
ただ今回の事態を引き起こした企業は、「ようやく12月から保険で使える」と心待ちにしていた患者が存在していたことに思いを馳せ、今後に活かす教訓とするべきだと言えます。
【MEジャーナル 半田 良太】