2022.03.01
厚生労働省は、医療上必要性が高いにもかかわらず、保険償還価格が販売価格よりも低いといった、いわゆる「逆ザヤ」が生じている特定保険医療材料の保険償還価格を、4月から引き上げます。特材は一部の例外を除き、保険収載されたら価格が下がる仕組みになっていますが、逆ザヤが生じている場合などは、「不採算品再算定」という例外があり、価格を引き上げることもあります。
●不採算品再算定 適用される機能区分は2年前から倍増
4月から「不採算品再算定」が適用され、価格が引き上げられる特材は、「8つの機能区分」に該当する品目となります。ちなみに2年前に「不採算品再算定」を適用したのは「4つの機能区分」でしたので、対象となる機能区分にグルーピングされている特材の品目数も、増加することになりそうです。厚労省は、現場の声に耳を傾け、医療機器メーカーなどにしわ寄せがいかないよう、価格の引き上げを行ったと言っても過言ではないでしょう。
●小児先天性心疾患のカテーテルも「適正価格」に見直し
21年4月のコラムでも紹介しましたが、完全大血管転位などの重篤なチアノーゼを来す先天性心疾患を抱える新生児に用いるNuMed製「Z-5カテーテル」(トライテック)の機能区分も、価格の引き上げが決まりました。
4月から2万5500円から倍以上の5万7900円になります。トライテック社は、既存の類似品が自主回収で供給が
ストップし、代替品がないと医療現場が混乱していた最中、「不採算であることを知りながら」製品供給に名乗りを上げていました。こうした企業の姿勢には頭が下がる思いですが、ようやく適正な公定価格に見直されたことは、国民の一人としても大変喜ばしいです。
●「わずか9カ月で価格が3倍弱」にアップした「整形材料」
しかし、今回の「不採算品再算定」で驚いたことがひとつあります。骨折後の変形治癒、先天奇形の患者に
使用する固定プレート「Accurio変形矯正システム」(帝人ナカシマメディカル)の保険償還価格が9万1500円から
26万5000円に引き上げられることです。
この特材は昨年6月から、同じ機能の特材がないことを理由に、「機能区分を新設」して保険償還価格を設定しました。それからわずか9カ月で、価格が3倍弱に引き上げることになったのです。当時の値決めの判断が妥当だったのか、驚くとともに、疑問にも感じました。
●当時の価格決定プロセスを検証する必要はあるか
価格を決めた当時の資料をみると、企業サイドは、25~26万円を希望していましたが、厚生労働省が9万1500円に設定しました。特材の保険償還価格は、臨床の専門家からなる「保険医療材料等専門組織」に諮り、そこでの
「たたき台」に基づき決定されます。
つまり、その専門家集団が9万円と判断したものを、わずか9カ月で3倍弱に引き上げることは、「過ちては
改むるに憚ること勿れ」と評価すべきことなのか、当時の議論を検証すべきなのか、皆さんはどう判断するでしょうか。
●ピーク時の年間販売予想はわずか500万円
日本は現在、少子高齢化が進行しており、将来的にも医療保険財政は厳しさを増すことが予想されています。医療費の無駄を省くことは必要不可欠なことですが、医療上必要性が高く、代替品のない特材まで、過度に価格を引き下げる必要があるとは思えません。しかもこの特材(Accurio変形矯正システム)の年間販売予測(ピーク時)はわずか500万円で、「乾いたぞうきんを絞る」ようなコスト削減は、慎重であるべきだったとも感じます。
●医療費抑制策は必要だがバランスが必要
厚労省の職員のほとんどは、患者、医療機関のために夜遅くまで働いています。しかし最近は、後発品の使用促進や、過度な薬価引き下げなど、比較的手掛けやすい領域を締め付ける政策が、目立っているようにも感じます。
政府が掲げる高い後発品の使用目標を達成するため、生産が追い付かない後発品企業が不祥事に手を染めるケースや、過度な値引き要求に耐えられなくなった医薬品卸が、談合を重ねて摘発されるケースは、当該企業、当該業界だけに責任を押し付けてよいのでしょうか。過度な医療費抑制策の結果として、歪が生じたというのが正直なところではないでしょうか。医療費抑制策は、これからも継続していくべきですが、取りやすいところ、やりやすい政策を優先させるのではなく、全体のバランスの中で、政策を打ち出す必要があるとおもいます。
【MEジャーナル 半田 良太】