2022.05.02
厚生労働省は、国内の医療機器産業の発展・振興に向けた、いわゆる令和版“医療機器基本計画”(案)を固めました。第一期の基本計画から6年ぶりの見直しとなります。今回第二期の基本計画では、AI(人工知能)をはじめとするプログラム医療機器の医療保険上の評価や、新型コロナウイルス感染症の流行による人工呼吸器などのひっ迫を受けた医療上必要不可欠な医療機器の明確化など、新たな課題に取り組むことにも言及しています。
●5月の閣議決定に向け最終調整中
いわゆる医療機器基本計画は、「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律」(議員立法)に基づいて策定されたもの。2016年5月に、第一期の基本計画が閣議決定されてから5年以上が経過しており、見直し時期に差し掛かっており、第二期計画として2026年までの新たな5カ年計画を策定します。厚労省は、策定した基本計画(案)について、5月に閣議決定する方向で最終調整しています。
●長期ビジョン示し、取り組むべき課題を列挙
基本計画(案)では、医療機器産業が目指す「ビジョン」として、(1)「医療機器研究開発の中心地としての我が国の地位の確立」(2)「革新的な医療機器が世界に先駆けて我が国に上市される魅力的な制度の構築」
(3)「あらゆる状況下での国民に必要な医療機器へのアクセシビリティの担保」を設定しました。
まず「医療機器研究開発の中心地としての我が国の地位の確立」に向けたゴールとして、臨床ニーズを見出し、研究開発から事業化までを牽引可能な医療、企業人材の増加や、研究開発拠点、医療機器メーカー、ベンチャー企業の連携強化、ヒトに初めて試す段階の治験「ファースト・イン・ヒューマン」を含めた非臨床の実験系・評価系の構築など掲げました。
「革新的な医療機器が世界に先駆けて我が国に上市される魅力的な制度の構築」に向けては、早期実用化に向けた承認制度・審査体制の構築や、医療保険制度でのイノベーションに対する適切な評価に加え、日本の薬事承認の国際的な意義を向上させ、国際規制調和を図ることを出口戦略としています。
「あらゆる状況下での国民に必要な医療機器へのアクセシビリティの担保」では、国際展開に積極的に取り組む日本企業を増加させるほか、プログラム医療機器を含めたイノベーションの適切な評価と、有事の際の安定供給の確保など、薬事規制や診療報酬面の課題を盛り込みました。
●重点5分野は「シーズプッシュ型」から「社会課題解決型」にシフト
そのうえで、今後5年間で集中的に取り組むべき「重点分野」については、考え方を大きく整理したこともポイント。第一期計画では、市場規模が大きく、今後の成長が見込め、日本企業が強みを持つ分野を絞り込む「シーズプッシュ型」を採用しましたが、第二期計画では、団塊ジュニアが65歳を迎える2040年を見据えたことに加え、新型
コロナウイルス感染症の流行によって明らかになった課題などを踏まえた「社会課題解決型」にシフトしました。
●「予防」「早期発見」「個別化医療」「身体機能の補完」「負担軽減」がキーワード
新たに定めた重点5分野、(1)「健康無関心層に対する予防・健康寿命延伸、重症化予防に資する医療機器」(2)「予後改善につながる診断の一層の早期化に資する医療機器」(3)「臨床的なアウトカムの最大化に資する個別化医療に向けた診断と治療が一体化した医療機器」(4)「高齢者等の身体機能の補完・向上に関する医療機器」(5)「医療従事者の業務の効率化・負担軽減に資する医療機器」です。
それぞれの最終製品のイメージを順に列挙すると、(1)では「重大な疾患リスクに関する情報を自動的に収集し、受診すべき適切なタイミングを伝えるウェアラブルデバイス」(2)では「医師の見落としを防ぐような診断補助プログラム」(3)では「患者の疾患の状態を評価し、適切な薬剤や治療方法を提案するプログラム」(4)では「失われた運動機能を補完するようなロボットスーツ」(5)では「読影を補助するようなプログラム」を、具体例として挙げています。
●日本経済けん引役への成長を期待
医療機器産業は、日本のモノづくり力を活かせるとして、2010年前後から、自動車産業などに並ぶ、日本経済
けん引役として独り立ちすることを期待されてきました。期待を集めるようになってから10年超の時間が経過しましたが、一定の成長は続けているものの、企業ベースでみると米国企業との差が広がっているようにも見えます。第二期計画に盛り込まれた取り組みを実行に移すことで、米国企業との差を着実に埋め、日本経済けん引役の一翼を担えるような産業になることを切に願っています。
【MEジャーナル 半田 良太】