2023.12.01
新型コロナウイルス感染症の流行や、国際紛争、物価高などにより、必要な医療機器が欠品するケースや、国が定める特定保険医療材料の償還価格が、医療機関の購入価格を下回る(例えば20万円で買った特材を使って手術しても、15万円しか公的保険でカバーされない)ケースが、後を絶ちません。
とくに、償還価格が購入価格を下回る、いわゆる“逆ザヤ”を起こしている特材の増加は、病院経営にダメージを与えています。厚生労働省は来年4月の診療報酬改定、保険医療材料制度改革の中で、こうした逆ザヤを起こしている特材を解消する制度を新設する方向で、見直し作業を進めています。
●安定供給に支障が出た製品 22年度は2年前から3倍増
厚労省の資料によると、医療機器メーカーから、医療機器の安定供給に支障が出た製品(支障が出る恐れのある製品を含む)の報告が、2021年度以降に右肩上がりで増加しているといいます。供給不安と供給停止を合わせた報告件数は、20年度では73件だったのが、21年度には159件と倍増し、22年度には275件と3倍超に達しました。23年度は4~9月までですでに152件となり、このまま推移すれば、通年で300件に到達する勢いです。
また逆ザヤの発生など、供給が著しく困難で、償還価格が十分でない特材については、医療機器メーカーが、償還価格の引き上げを求めることができる仕組み(不採算品再算定)が存在しますが、22年度改定に向けた要望はわずか11件だったものが、24年度改定では79件と、7倍超となっています。
●不採算品の価格見直し要望「3つの高いハードル」
不採算品再算定の要望を行うには、①代替するものがない特材であること②関係学会から医療上の必要性が高いと継続供給要請があるもの③材料価格(償還価格)が著しく低いこと―の要件を満たす必要があります。
医療機器業界によると、メーカーが不採算品再算定を申し出る際に高いハードルとなっている要件は、①と②だそうです。②については、個別企業を支援できないとする学会が一部存在していたことから、現在は厚労省がこうした誤解を解き、学会に協力を呼び掛けており、残る課題は①となっています。そのため厚労省は、①の基準に該当するかどうかを、わかりやすく例示し、メーカーから要望を上げやすくすることを来年4月の保険医療材料制度改革で想定しています。
●代替品がない特材を例示などで「明確化」へ
例えば、4社の製品が同一の機能区分に存在し、市場シェア80%のA社が撤退する場合、シェアの低いB、C、D社が増産するかどうかは、人員面、設備面、経済面などを踏まえて判断するため、必要な医療機器が患者に届かない事態が発生しうると整理しました。
●機能区分の分離も解決策のひとつ
さらに、同じ機能区分に収載された特材であっても、対象患者や対象疾患が異なるケースもあることから、例えば市場シェアが5%しかない場合でも、「医学的な観点を踏まえると、代替するものがない」と判断しうるとの考え方も明らかにしました。
同一区分内に収載された特材で、対象患者や対象疾患が異なるケースについては、医学的観点から、別の機能区分を作って対応してはどうかとも考えており、関係者間の合意形成も進めています。
●医療機器版の価格下支え制度も創設へ
厚労省は、医療機器の安定供給に向け、不採算品再算定に次ぐ、“第二の矢”も放つ方向で準備を進めています。それは不採算に陥る前に、償還価格を下支えする制度を創設し、医療上必要不可欠な医療機器について、採算面を理由に、製造中止などに踏み切らないようにする制度です。これは薬価制度に存在する「基礎的医薬品」という制度を参考にしたもので、“基礎的医療機器”とでもいったところでしょうか。なお基礎的医薬品は、薬価収載から25年以上経過し、医療上の位置づけが確立し、広く臨床現場で使用されている製品などが対象となり、その薬価が維持される仕組みです。
今後、医療の基盤を支える医療機器が安定供給され、病院や販売業者にしわ寄せがくることなく、すべてのステークホルダーが適正な利潤を得られる仕組みとなるよう、祈念しています。
【MEジャーナル 半田 良太】