2024.01.04
約3カ月前、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)についてのメディアセミナーに出席しました。SASは、就寝中のいびきや、呼吸が止まることでも知られており、一般的にも身近な疾患。鼻にマスクをつけ、空気を送り込みながら就寝する「持続陽圧呼吸療法」(以下、CPAP)を受けるタレントを、テレビのバラエティー番組で見たこともあり、疾患そのものだけでなく、治療法に対する世間一般の認知度も、比較的高いのではないかと感じています。
出席したメディアセミナーは、SASを広く一般の方に知ってもらう疾患啓発と、体内にデバイスを植込み、舌下神経を刺激する新たな治療法を紹介する2本立て。セミナーを通じて、治療の進化・多様化への驚きとともに、さらに効果の高い非侵襲治療登場に対する期待感の高まり、そして、CPAPに対する患者のアドヒアランス(治療の継続性)の低さを痛感し、帰路につきました。
●SAS 心筋梗塞などの「イベント」につながる可能性
SASは、熟睡することができず、日々強い眠気に襲われ、倦怠感に悩まされます。これだけで済めば“まだマシ”だと思いますが、高血圧、動脈硬化を引き起こし、ひいては心筋梗塞、不整脈などを発症するリスク因子になり得るため、治療が必要になるわけです。
そこで治療の第一選択となるのがCPAP。ただ、マスクの装着があわない、不快感がある、空気が漏れる、鼻詰まりなどを理由に、アドヒアランスなどに問題があるといい、セミナーでは、CPAPの使用状況が良好な患者の割合が「17%から54%程度に過ぎない」というデータも示されました。こうした使用感の問題や鼻詰まりなどの理由以外にも、「酔っぱらっていて装着するのが面倒」「うたた寝してしまって装着しなかった」といったことで、CPAPの効果を感じられないような短期間使用の結果、CPAP治療を放棄してしまうケースも散見されるようです。
●植込み型刺激装置による新治療「期待感と逡巡が綯い交ぜ」
新しい体内植込み型のデバイスは、そうした問題に対する解決策のひとつ。物理的に気道が閉塞しているタイプのSASで、CPAPが適用できず、症状が中等度以上の患者に、電気刺激装置とリードを埋え込み、呼吸と同期して舌下神経を刺激し、気道を開くという治療です。
実際、CPAPに比べて患者満足度は90%超というデータも存在するそうです。欧米で実施された試験では、無呼吸低呼吸指数と酸素飽和度低下指数が、植込み型の治療を実施する前と比べ、有意に改善していることから、治療効果も高いと言えます。
私自身はSASではありません。CPAPを使用したこともなく、煩わしさや睡眠を妨げるような不快な経験もないため何とも言えませんが、有効性が立証され、未治療ならば将来的に重篤な疾患に罹患するリスクが高まるとはいえ、手術という侵襲を伴うこの治療に逡巡してしまいそうです。
●改善・改良を重ねる機器の特性発揮が期待される「腕の見せ所」な分野
こうした状況を勘案すると、非侵襲のCPAP療法にも、改善が必要な課題を抱えていることは間違いありませんし、効果があるとはいえ、電気刺激装置の植込みにも、越えなければならない心理的ハードルは高そうだということです。
医療機器業界は、製品の改良・改善を医療保険の中で評価して欲しい(特定保険医療材料として高く評価してほしい、使用する医師の技術料をアップして欲しい)と訴え続けています。まさしくSAS治療は腕の見せ所。CPAPの改善・改良、電気刺激装置の小型化、将来的には侵襲度の低い(または非侵襲の)、更なる効果的なSAS用の治療機器の開発に期待感が集まっていると言っても過言ではないでしょう。
●患者の意識改革も必要
また、煩わしさや面倒くささ“だけ”を理由に、CPAP治療を放棄、離脱する患者にも問題がないとはいえません。これは医薬品の服用を、自己判断で中止する患者などにもいえることですが、高齢化が進み、医療保険制度の持続可能性が懸念される中、自分勝手な理由だけで治療を断念することは、社会的にも容認することができないことを、理解しなければなりません。SASは生活習慣にも起因します。肥満の方は適度な運動や食事の改善も必要で、偉そうなことを書き連ねた私も、肝に銘じたいと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】