2024.02.01
1度使用したら廃棄しなければいけない医療機器(シングル・ユース・デバイス、SUD)を使用後に回収し、分解、洗浄、滅菌して再出荷する「再製造SUD」の制度が2017年に創設され、今年で7年目に突入します。来年6月の診療報酬改定では、再製造SUDを使用して手術した医療機関に対し、経済的なインセンティブを付与する方向で議論が進んでいますが、患者の視点が欠落したまま議論が進んでいる気がして、何かモヤモヤ感が払しょくできません。
●再製造SUD使用時の患者説明など「医療機関の手間」に報いる
厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定に向けて、再製造SUDを使用する医療機関にインセンティブを付与することについて、「患者への別途の説明など、特別に必要となる対応を評価する」と審議会の資料に明記。再製造
SUDを使用する医療機関が患者に説明する「手間がかかる」ことに報いる考えを示しています。
さらに再製造SUDは、SUDの公定価格の7割と安く、医療費を抑制するために使用を促したい考えで、高齢化の進展で保険料負担などに頭を悩ます保険者も、再製造SUDの使用は“ウェルカム”との受け止めのようです。廃棄物削減の観点からも、時代の流れに沿っているとも言われています。
●再製造SUD使った心筋焼灼術では「患者負担は変わらない」
ただ今年12月末現在、保険適用された再製造SUDはわずか3品目。いずれも、心房細動などをカテーテルで治療する「経皮的カテーテル心筋焼灼術」で使用されるものに限定されます。「経皮的カテーテル心筋焼灼術」を受ける場合には、入院や検査も必要になることから、一般的には患者のトータルの自己負担額は100万円を超えます。収入に応じて定められる「自己負担の限度額」を超えることになるので、高額療養費制度を使うと、医療費が10万円程度で済むことになります。つまり、「経皮的カテーテル心筋焼灼術」を受ける患者は、新品のSUDを使っても、再製造SUDを使っても、窓口負担は変わらないという事です。
そのうえ、再製造SUDが使われる場合には、患者は医療機関から、再製造SUDについての説明を受けるという建てつけです。つまり患者にとって、再製造SUDを使った手術は、単に説明を受けるための時間や手間がかかってしまうだけなのです。
●後発品の使用は患者負担減少に直結
再製造SUDと似た概念を持つのは、後発医薬品でしょうか。特許が切れた新薬を安価に製造することで、患者負担と医療費の抑制を両立できるとして、厚労省が躍起になって使用促進に舵を切りました。
厚労省が後発品の使用を急激に進めたこともあり、製薬企業の生産体制に無理が生じ、安定供給に支障をきたしていることはご承知の通り。今回のコラムではそこへのこれ以上の言及、評価は避けますが、少なくとも後発品を使用した場合、再製造SUDとは違って、医療機関に経済的なインセンティブを付与しても、通常は「自己負担の限度額」以内であり、新薬よりも安いため、患者も窓口負担が軽くなるというメリットが享受できます。
●まずは再製造SUDの認知度向上、周知徹底を図るべき
医療機関にただ働きを強いることはあってはなりませんし、高騰する医療費を抑制しなければならないことも否定する気はありません。廃棄物削減も然りです。しかし、患者を置き去りにしたまま、再製造SUDの使用を促し、診療報酬で評価するというのは「一足飛びではないか」との思いが拭えません。
自身の病気が悪化して「いざ手術」となり、様々な不安を抱えている患者に、どれだけ医療機関が「再製造SUDを使います。医療費削減に寄与します」と説明を尽くしたとしても、どれだけ頭に入り、理解・納得が得られるのか、はなはだ疑問です。
再製造SUDの普及策の一環として、医療機関に経済的なインセンティブを付与する前に、医療機関に「うちの病院では再製造SUDを使っています」といった院内掲示を促したり、保険者に「ジェネリック医薬品希望カード」のような、制度の趣旨などをまとめた資材で呼びかけたりする方が、優先順位が高い気がします。再製造SUDの使用促進が本当に必要であるならば、患者への認知度向上、周知徹底に取り組むところから始めるべきではないでしょうか。
【MEジャーナル 半田 良太】