2024.07.01
医療機器業界20団体が加盟する日本医療機器産業連合会(医機連)は6月、日本の医療機器産業の在り方と、今後の方向性を広く示す新産業ビジョン「-いつでもどこでも安心して受けられる医療と健康への貢献-」を策定しました。
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや、国際情勢の急変を踏まえ、「世界の人々がどんな時でもどこにいても、安心してよりよい健康的な生活を送り、適切な医療へアクセスできる環境を実現する」との目標を掲げています。
●30年後に7倍の市場獲得 新政府目標実現へ「経済成長へ寄与」
経済産業省は今年2月、2050年の時点で、医療機器の世界市場が214兆円(20年時点=以下同、48兆円)になるとの推計値を発表、そのうち日本の医療機器メーカーが21兆円(3兆円)の獲得を目指すと明らかにしました。30年で7倍、世界市場の約1割を日本企業が担うという野心的な目標です。
新産業ビジョンでは、健康への貢献と共に、「日本経済の成長に寄与すべく、医療機器産業が取り組む内容をとりまとめた」とも明記しています。野心的な政府目標を踏まえ、産業界として高い成長率を達成しなければならないとも気を引き締めています。
●センサー、AIなどと融合したイノベーティブな製品生み出す
新産業ビジョンの実現に向けては、7つの課題に取り組むとしています。まず「イノベーションを実現し社会に届けるための環境整備の促進」ですが、センシング技術やAI(人工知能)などの新たな技術を融合した革新的な製品・技術開発を促し、医療の質向上、効率化・均てん化に向けた環境整備を図るとしています。
こうした革新的な製品を適正に評価する“予見性のある保険制度”の整備などの必要性を明記したほか、医療機器開発を加速化するための、“医療データの2次利用も前提とした環境”を整えることも提言しています。
●パンデミックや国際紛争下でも安定供給可能なサプライチェーンの最適化
次に「継続した安定供給の実現に向けた取組」として、パンデミックや国際紛争の経験を踏まえ、過度な国際分業を見直し、サプライチェーン全体の最適化の必要性に言及し、医療へのアクセシビリティー確保に寄与するとしました。
3点目の「医療機器・技術のグローバル化を通じた医療機器産業の発展」に向けては、成長著しい海外展開が欠かせないと指摘。そのためには、世界標準からかけ離れた“ガラパゴス化”を避け、国際標準・規制調和が不可欠とし、海外の医療機器団体との交流や連携を深めるとしています。
また医療費高騰に頭を悩ます先進国、医療インフラの整備を進める途上国で、求められる製品やサービスのニーズが異なることを踏まえた対応が必要とも注意喚起しています。
●フェイクニュース対策、環境への配慮も必須
4点目は、インターネットなどの情報化時代の中で、「国民のヘルスリテラシー向上」も求められるとしています。いわゆるフェイクニュースも氾濫する中、医療機器についての正しい情報発信を通じ、患者参加型の医療の普及と、個人主体の健康増進への貢献を目指すとしています。
5点目は、脱炭素、化学物質規制への対応など、「持続可能な社会に向けた地球環境と医療の質のバランシング」を掲げています。医療水準の維持・向上だけにとらわれず、環境保護との両立を目指し、地球環境への貢献も横にらみする必要性を説いています。
6点目は、労働力不足を踏まえた「医療機器産業の基盤となる人材獲得と育成」が必要になるとして、魅力のある産業であることを理解してもらうべく、情報発信を積極化させる考え。異業種からの人材流入を促すことも必要と位置付けています。最後は、「健康・医療に貢献する健全で信頼される産業への研鑽」でコンプライアンスの周知徹底にも触れています。
●日本の医療機器産業の更なる成長に期待
ただ新産業ビジョンに記された取り組みを推進するだけで、日本企業が21兆円の市場獲得を目指すという政府目標を実現できるという保証はありません。現在、医療機器メーカーの国際的な売上高ランキングをみると、日本勢トップはオリンパスの18位。トップ30社のうち、日本企業は5社にとどまります。
日本経済けん引役として期待される医療機器産業ですが、よく引合いに出される自動車業界では、トヨタ、ホンダ、日産(アライアンスを含む)が、販売台数で世界トップ10入りしている状況と比較すると、まだまだ道半ばといえそうです。
言い尽くされておりますが、日本の医療機器業界がさらに飛躍するためには、既存事業の高い成長に加え、新たなテクノロジーを駆使したスタートアップの育成、M&Aなどの活発化が不可欠でしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】