2024.09.02
これまで手術に「複数」の特定保険医療材料が必要だったが、改善・改良した特材「1つ」で対応できるようになれば、高い公定価格で報いて欲しい―。医療機器業界のこうした要望を下敷きに、今年6月から「経済性に優れた、医療費削減に資する製品」を上乗せ評価する仕組み(経済性加算)が設けられました。
治療成績が同等以上で、医療保険財政の節約につながる特材の公定価格を一定程度上乗せしても、売り手と買い手が満足し、社会にも貢献する近江商人の「三方よしの精神」にも合致するといっても過言ではないと思います。
●優れた製品開発の結果が「収益減」という悲哀
経済性加算の新設は、医療機器業界の提案がきっかけです。パーキンソン病などを治療する従来の深部刺激治療では、「刺激装置2個とリード2本」を植え込まなければなりませんでした。これが製品改良によって、「刺激装置
1個にリード2本」で、既存治療と同等以上の有効性を発揮するばかりか、患者の感染リスクや身体的な負担も低く抑えることができるのです。
ところが、既存の評価の枠組みでは優れた製品を市場に投入したにも関わらず、企業収益にマイナスになるという不整合が生じるというのです。「刺激装置2個とリード2本」の公定価格の合計は294万円で、「刺激装置1個に
リード2本」の公定価格は207万円です。研究開発費などで原価が上昇しただけでなく、新たに医師のトレーニング費用なども掛かっているため、「(207万円という)評価は十分ではない」と音を上げました。こうした評価体系が維持されるのであれば、企業による製品改良の意欲を削ぎかねないことから、評価の枠組みの見直しを要求した次第です。
●経済性加算創設で「デバイスロス解消」も期待?
そこで登場したのが、冒頭で紹介した経済性加算という発想です。簡単に言うと、使用しなくて済むようになる医療材料(上記の例では刺激装置)の公定価格の半分を、「経済性加算」として上乗せ評価するというものです。
業界によると、側彎症の治療でも、既存治療では使用するアイテム数が2つだが、1つで済む日本未導入の製品も存在するそうです。日本未導入の製品では、アイテム数が1つで済むだけではなく、開腹または開胸せずに、腹腔鏡または胸腔鏡下で手術できることから低侵襲で済むのです。経済性加算が制度化されたあかつきには、こうした日本未導入の製品を国内市場に投入しようという企業マインドが醸成されることを期待したいです。
●9月から初の経済性加算の対象製品が登場
経済性加算による評価の枠組みは今年6月からスタートしましたが、9月から2製品がその評価を受けることも決定しました。心筋焼灼に用いる「パルスフィールドアブレーションカテーテル」です。このカテーテルを使うと、治療後の検査を1つのカテーテルで実施できるとして、節約できる特材の公定価格6万4000円の半分、3万2000円を経済性加算として上乗せすることになりました。
少子高齢化の進展で医療費抑制ばかりに目が向きがちですが、イノベーションは適切に評価すべきだと思うので、良い仕組みができたと歓迎したいです。ただ、患者の負担軽減などの更なるプラス要素があるとすれば、単に「費用削減額の半分」を上乗せするだけで十分なのか、という思いが頭をよぎります。こうした思いは、厳しい医療保険財政を踏まえると欲張りなのでしょうか?
【MEジャーナル 半田 良太】