2024.10.01
夜間休日の製品配送といった「緊急対応」や、医療機器販売業者に所有権のある製品を医療機関で保管・管理する「預託在庫管理」について、契約締結を促す流れが出ています。医療機器販売業者は今年4月から、契約締結を見据えた交渉を、医療機関と開始しました。厚生労働省も審議会の場で、こうした取り組みに理解を示し、契約締結を促す通知を出しています。ただ、医療機関側からすると、人手不足や物価高などで経営環境が厳しい中、これまで無料サービスだった緊急対応の有料化を受け入れることは簡単ではなく、腰を据えた取り組みが求められることになります。
●契約未締結での無料サービスが常態化
医療機器販売業者はこれまで、医療機関からの求めに応じ、営業時間外の夜間や休日の配送について、無料サービスとして提供することがほとんどだったといいます。預託在庫管理も、保管中の紛失、破損や汚れなどが生じた場合の取り決めがなく、そのほとんどを医療機器販売業者の責任で、対応せざるを得ない状況でした。
こうした状況を踏まえ、医療機器販売業の業界団体「日本医療機器販売業協会」は、自主基準「適正使用支援業務ガイドライン(GL)」として、「緊急対応」と「預託在庫管理」のモデル契約書を策定しました。医療機器販売業者は今年4月から、GLで定められたモデル契約書などをベースに医療機関と契約を結び、有償化につなげることで、取引透明化につなげたい意向を持っています。
●「緊急対応」「預託在庫管理」に絞り込んでGLを策定
「適正使用支援業務」とは、医療機関での医療機器の適正な使用を、総合的にサポートする業務を指す、いわゆる“業界用語”です。「緊急対応」「預託在庫管理」のほかに、短期貸出し・持込み、手術などへの立会い、保守・メンテナンスが具体的な業務となります。今回、業界がまとめた「適正使用支援GL」では、これまでほとんど契約が締結されてこなかった「緊急対応」「預託在庫管理」に絞りこみました。
●モデル契約書で夜間休日を定義 費用や条件は当事者間で協議を
GLでは「緊急対応」において、平日午後●時以降、翌日午前●時までを「夜間」、土曜、日曜、国民の祝日を「休日」と定めると例示しています。
そのうえで、夜間休日の配送や、呼び出しの費用について、「1対応あたり●円」「対応人数1名1時間につき●円」などとしています。具体的な費用や条件については、当該、医療機関と販売業者が話し合いで決定することを促しています。
●預託品の適正管理の責任は医療機関にある
また「預託在庫管理」では、医療機関が預託品(製品)を適正に管理する責任を負うと明記し、盗難や横領、毀損などを防止する義務があると整理しました。そしてまた、預託品の使用の際には、医療機関が使用日や製品名、モデル番号、ロット番号・数量などを記録しなければならないと明記しています。販売業者から医療機関への所有権の移転は、医療機関が預託品を使用した場合などとし、医療機関が預託品の包装を開封した場合も「使用した」と扱うとしています。
●長年の商慣行を変革するため「粘り強い交渉が必要」
株式を上場する大手販売業者が8月に開いた決算会見では、「緊急対応」の契約締結と有料化について、「医療機関にご理解いただくための活動を開始しており、契約書締結を含み、有料化の実現を目指している」と前向きな取り組みが説明されました。
ただ、「長年の商慣行を変革する取り組みとなるため、粘り強い交渉が必要」とも述べ、一筋縄ではいかない状況も併せて報告されました。交渉開始から数カ月経過しても、なかなか見通しが立たない状況といえそうです。
医療機関にとっては、これまでの無料サービスだったものを、有料契約とするのは抵抗があるでしょう。とくに経営環境が厳しい現下の状況では尚更です。無料サービスだった背景には、取引を誘引するために、医療機器販売業者から言い出すケースもあったと聞き及んでいます。いずれにせよ、これまで契約を締結せず、無料サービスだったことが「異例だった」という認識を、販売業者、医療機関ともが持つべきだと思います。
【MEジャーナル 半田 良太】