2024.11.01
「プログラム医療機器(以下SaMD)の実用化促進に向けた薬事上の措置を検討し、2024年末までに結論を得る」-。政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)を踏まえ、医薬品医療機器等法改正に向けた議論が本格化しています。厚生労働省は、「SaMDと同様の機能を有する医療機器」を試行的に実施しているSaMDの優先審査の対象に含めるとしたほか、人体へのリスクが比較的低いと考えられる「クラスⅡ」に分類され、臨床試験や臨床性能評価を必要としない一定の要件を満たすSaMDについて、審査期間を短縮する方針を示し、関係者と協議しています。
●薬事・保険評価のSaMD「徐々に増加」
SaMDとは、Software as a Medical Deviceの略で、単体で機能を果たすソフトウェアを指します。現在、製造販売承認を受け、保険適用(技術料での評価)までたどり着いたのは、高血圧治療の基本である生活習慣の修正を支援するCureApp社の「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」や、咽頭の画像でインフルエンザを診断するアイリス社の「nodoca」、大腸内視鏡画像から、がんの検出を支援・補助するオリンパス社の人工知能「EndoBRAIN-EYE」などで、近年徐々に増えていますが、海外と比べると見劣りがします。
●政府が「更なる迅速審査」を厚労省に要求
これまでにも厚労省は、人体へのリスクが低いとされるSaMDの特性を考慮し、製造販売承認の迅速化を進めています。具体的には、承認取得後に性能向上が予定される医療機器について、ソフトウェアの更新などの変更計画について、事前に承認を受ければ審査期間を短縮する「IDATEN制度」や、有効性の推定で仮承認を与える「二段階承認制度」も導入しました。SaMDは、医療従事者・患者の負担軽減などにも貢献し、デジタル技術の活用による業務改善にも繋がることから医療現場の期待は大きいです。世界的にも市場が急速に伸びていますが、上記の通り国内成長は緩やかなため、政府として更なる迅速化を目指す方針を固め、厚労省に検討を促している状況です。
●SiMDも優先審査の対象に含めてはどうか
そうした中、薬機法改正に向けた議論が佳境を迎えています。厚労省は、「①治療法、診断法、予防法の画期性、②対象疾患に係る医療上の有用性、③世界に先駆けて日本で早期開発、承認申請する意思と体制の構築、の3条件」-を満たすSaMDの優先審査について、「SaMDと同様の機能を有する医療機器」も対象とすることを提案しました。
これはSaMDと全く同じ機能を持ったプログラムを、ハードウェアにインストールした医療機器(Software in a Medical Device、以下、SiMD)になると、途端に優先審査の対象から非該当になるという、非常に不合理なことを避けるための提案になります。
●SaMDの市場規模予測「10年弱で約5倍」
また、現在SaMDの優先審査は試行的との位置づけで、厚労省の通知ベースで運用されています。厚労省は法制化を視野に入れていましたが、試行的運用の成果と、SaMDの優先審査とは別に、世界に先駆けて日本で顕著な有効性が見込まれる医療機器を通常の半分程度の6カ月で審査する「先駆的医療機器指定制度」の対象、要件等を含めて、改めて検討する方針を示しています。
SaMDの世界市場規模は、2019年の185億ドルから2027年に865億ドルと、10年弱で5倍弱に成長するとの予測すらあります。政府がSaMDについて成長産業として期待している以上、薬事制度にとどまらず、保険制度も含め、これらの迅速な見直しは待ったなしと言えそうです。
【MEジャーナル 半田 良太】