2025.01.06
営業時間外の「夜間・休日」に製品を配送する「緊急対応」について、医療機器販売業者と医療機関の間で、1回あたりの配送単価などを定める「契約」を締結し、「有償化」につなげるという「流通適正化」に向けた取り組みが2024年4月にスタートしました。厚生労働省も、「契約」の締結と「有償化」の流れを支持していますが、取り組みは遅々として進んでいない模様です。
●業界大手 契約締結率は8カ月で「わずか3%」
東京証券取引所に株式を上場する医療機器販売業界大手に聞いたところ、スタートから約8カ月で、医療機関と「契約」を締結したのはグループ全体でわずか3%です。医療機関から費用を徴収したのは、11月の1件にとどまるそうです。
これはあくまで1企業のデータですが、グループ10社以上、本州を中心に九州の一部までをカバーしていることを考えると、業界全体でも、「契約」の締結や「有償化」が受け入れられているとは考えづらいのではないでしょうか。
とくに、働き方改革や物価高などで経営がひっ迫する医療機関の現状を踏まえると、これまで無料だった緊急対応を、「有償化」して欲しいと要請されても、簡単に首を縦に振れないでしょう。
●「立会い」は是正へ 「緊急対応」は流通適正化の積み残し課題
医療機器販売業者は、医療機関に対し、製品の配送に加え、機器の適正な使用を総合的にサポートする「適正使用支援業務」を提供しています。適正支援業務とは、手術時に医療機器の仕様説明や使用方法に関する情報提供を行う「立会い」、前述の「緊急対応」、販売業者や医療機器メーカーが所有権を持ったまま、医療機関に在庫を配置する「預託在庫管理」などを指し、そのサービスは多岐にわたっています。
「立会い」は、販売業者によるその無償提供が医療機関に取引してもらうための「不正な取引誘因の温床」と問題視され、厚労省が2006年に、定義や無償提供可能な回数などを定めた通知を出し、是正に乗り出した経緯があります。
通知発出から20年弱が経過し、立会い問題に一定の区切りがついたため、適正使用支援で残された課題である「緊急対応」と「預託在庫管理」に焦点が移りました。
医療機器販売業者の団体である日本医療機器販売業協会(医器販協)は2023年10月、「緊急対応」と「預託在庫管理」について、モデル契約書を作成し、販売業者と医療機関の間で「契約」を締結しました。前者については「有償化」を見据えた取引慣行の見直し求める「適正使用支援ガイドライン(GL)」を策定し、約半年間の周知期間を経て、2024年4月からスタートしました。
●「緊急対応」の契約・有償化 「まだ切り出せない販売業者」も
厚労省も2023年12月、トラックドライバーの残業規制などを受けた「物流2024年問題」への対応策をまとめた通知を発出しました。その中で、緊急対応において従来のような当日発注・当日配送が困難になることを踏まえた対応策のひとつとして、「適正使用支援GL」を活用し、「透明性の高い適正な契約の締結」を求め、販売業界の主体的な取り組みを側面支援しているのです。
とはいえ、これまで無料だった「夜間・休日」の「緊急対応」に、「契約」締結と費用負担を求めることに、販売業者や現場の営業マンの抵抗感は根強く、厳しい経営状態が続く医療機関においそれと「有償化」を切り出せないということは想像に難くありません。
●「預託在庫管理」の契約締結は順調に推移
一方、「預託在庫管理」の契約締結はスムーズです。先に触れた業界大手も、グループ全体での契約締結率は「概ね8割程度」と順調です。「預託在庫管理」は、「契約」締結の必要性こそあれ、「有償化」まで踏み込む案件ではないようです。そもそも配送頻度を減らすため、販売業者と医療機関の知恵で生み出された取引慣行で、販売業者からすると「医療機関に在庫を置かせてもらっている」という意識が強い模様です。
いずれにせよ、「緊急対応」には、販売業者の営業マンの人件費や、自動車のガソリン代など、間違いなく実費がかかっています。これを無料サービスとしたままなのは、適正な流通とは言えないでしょう。近く開かれるとされる、厚労省の審議会でも、改善に向けてどのような方策が考えられるのか、関係者間で議論を深めるべきでしょう。
【MEジャーナル 半田 良太】