2025.02.03
少子化による労働力不足が加速する中、医療機器業界の魅力を発信することで、新卒の学生を確保することは必要不可欠です。さらに医療分野でもAI(人工知能)やDXの波が押し寄せていることを踏まえ、異業種とのコラボレーションや「デジタル人材の確保、育成」という課題にも対処せねばなりません。
こうした課題に対応するため、日本医療機器産業連合会(医機連)が2024年6月に策定した「医機連産業ビジョン」では、「医療機器産業の基盤となる人材獲得と育成」を柱の一つに据えています。
●成長産業として「高まる」期待も就業希望は「低調」
ここ10年以上、政府が医療機器業界を“成長産業”と位置づけ、次代の日本経済のけん引役と期待していることは何度もこのコラムでご紹介した通りです。ただその期待に反比例するかのように、医療機器業界は学生からの人気が低い状況にあります。
医機連が2017年8月に実施した学生約4000人を対象としたアンケートによると、18業種中、医療機器業界の人気は15番目と下位に沈んでいます。さらに医療機器業界に興味を持っている学生でさえ、「敷居が高そう」「専門知識を要しそう」など、業界のハードルの高さを指摘する始末です。
●学生向けのPR活動が奏功
医機連はまず、学生に対する業界の魅力をアピールするため、2019年から(1)学生のための医療機器業界情報発信ウェブマガジン「医機なび」の開設、(2)年2回の就活ウェブセミナーの開催を決定し、現在では、その成果が上がりつつあります。
まず「医機なび」を利用した学生へのアンケートによると、90%超が「役に立った」と回答しています。特に「文系学生にとって、理系の知識がなくても医療系で活躍できる」ことを知るきっかけになったとのコメントも寄せられ、医療機器業界を希望する学生の間口を広げることの一助になっているようです。
さらに年2回の就活ウェブセミナー(医療機器業界の基礎知識やインターンシップ情報などを提供する「スタートダッシュ編」と、医療機器業界の若手社員に相談できる「レベルアップ編」)に参加した学生に、医療機器業界への志望度の変化を確認したところ、それぞれ96.4%、84.4%が「向上した」といいます。医機連は今後、「技術・開発」を希望する学生に絞った新イベントを今年1月、2月頃に開催し、より実務面を意識した「特定の業種」に絞って情報を発信することで、人材獲得競争に打ち勝つ考えです。
●異業種、デジタルを意識した人材育成
次に、人材育成です。医機連正会員の電子情報技術産業協会(JEITA)は、IT、エレクトロニクス企業が中心の医療機器業界団体ですが、医療もこれからAI、遠隔技術、DX化の影響を受けるとし、異業種とのコラボレーションなどを意識した活動を展開しています。
JEITAの一部会である「ヘルスケアインダストリ部会」では、医療機器以外の医療・健康関連市場の急速な拡大を踏まえ、2022年から若手向け人材育成活動として「関連業界勉強会~医療・健康のために枠を超えよう~」を開催しています。このような若手勉強会の開催の背景には、医療・健康関連産業が急速に拡大していることを踏まえ、医療機器企業として「事業拡大のチャンス(攻め)」と「既存市場を失う脅威(守り)」があります。
これまで、「ゲーム」「鉄道」「マンガ・アニメ」「スポーツ(サッカー)」業界の講師を招き、その後グループディスカッションで議論を深めたそうですが、特に好評を博したのは、サッカー業界でした。「スタジアム内に病院を作り、日常に溶け込んだ高度な予防機会の創出」といった将来構想や、医療機器業界には乏しい「フットワークの軽さ」などで、「学びがあった」という参加者の声が届いています。
●政策提言力向上と行政とのネットワークづくりにも注力
最後に医機連肝入りの「医療機器のみらいを担う人財育成プロジェクト」(みらプロ)を紹介し、コラムを終えたいと思います。みらプロは2020年度からスタートし、4期目の最中です。一流講師による医療機器業界に関する講演と、行政を含めた多様な人材によるグループディスカッションを通じて、医療機器業界の「政策提言力」をブラッシュアップし、行政や医療関係者との関係強化につなげる取り組みです。
規制産業でもある医療機器業界は、経営に与える行政の影響が多分にあります。政策提言力向上や、行政官との顔の見える関係づくりは必須です。コラムで紹介した人材の「獲得」と「育成」への取り組み、成長産業となるために待ったなしの課題です。
【MEジャーナル 半田 良太】