2025.03.03
医療保険制度の一つに、高額な医療費の自己負担が必要となった際、毎月の限度額を超えた分の払い戻しを受けることができる「高額療養費制度」があります。厚生労働省は、健康な方を含めた全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る観点から、「自己負担の限度額引き上げ」に向けた検討を進めています。厚労省の当初案に対し、国会ではがんなどの患者団体などの強い反発を受け、継続して高額な医療を受けざるを得ない患者にとって、過度な負担とならないよう、修正作業が進められていることは皆さんもご承知の通りです。
医療費抑制策については、後発医薬品の使用促進を急速に進めたことで、現在、医薬品の安定供給に支障を来していることを勘案すると、無理を押し通せば“歪”が生じるのはものの道理です。医療保険制度の持続性を高める観点から導入された1度の使用で廃棄することを前提とした医療材料(SUD)の再製造もそうですが、進捗を確認しながら、無理のない範囲で進めていくことが必要ではないでしょうか。
●セーフティーネットの見直し “石橋叩いても渡らない”慎重さを
2024年度の医療費(給付費)は42.8兆円です。少子高齢化の進展で、2040年には70兆円程度まで膨らむとの試算が示されるように、医療保険財政は厳しさを増しています。こうした状況を踏まえ、政府は「全世代型社会保障の構築」を掲げ、今後の現役世代の負担増を視野に「能力に応じて皆で支え合う」ことや、社会保障制度の支え手を増やすため、女性や高齢者の就労促進の方向性を打ち出しています。高額療養費制度の見直しも、こうした文脈に沿ったものですが、強い反発を生む結果となりました。
高額療養費制度は、がんや難病などに苦しむ患者が、医療費を払えずに治療をあきらめることのないよう、「セーフティーネット」として機能させるべき制度と考えます。「全世代型社会保障」を掲げるのであれば、まずは医療機関での窓口負担を、原則として国民全員3割にすることのほうが、優先順位は高いはずです。何故なら医療保険制度で最優先に支えるべきは、がんや難病などの重症患者であるべきだと考えるからです。個人的には、選挙を意識した政府与党が、高齢者の反発を怖れ、一律3割負担に前向きになれそうにないことから、別の案をひねり出さざるを得なかった厚労省には、同情を禁じ得ない部分もあります。
●取りやすいところから“搾り取る”政策からの「決別」を
とはいえ、厚労省は、医療保険財政を軽減するため、後発医薬品の使用促進を急激に進めたことが、後発品メーカーの不適切な製造・品質管理の不正の一因になったでとの指摘があることを、肝に銘じなければなりません。後発品を数量ベースで80%に引き上げるという大目標に目を奪われて、「その計画に無理はないのか」といった検証を丁寧にせず走り続けた結果、後発品メーカーの不正を惹起させ、結果として医薬品の供給不足を引き起こした反省を、今回も活かしきれていないのではないでしょうか。
●再製造SUDは制度化8年目で12製品
一方、医療機器でも、医療保険財政の持続性を観点から導入された政策があります。それが冒頭で言及した再製造SUDです。2017年に制度化されて8年目を迎えるのですが、19年の初承認からこれまで12製品(製造は2社のみ)が承認されています。PMDA(医薬品医療機器総合機構)によると、残り1カ月となった2024年度は、未だ承認品目がゼロの状況です。
●「小さく生んで大きく育てる」方針を堅持すべき
再製造SUDは、まだ国民に制度が周知されているとは言い難い状況ですので、後発医薬品のように普及目標を定めず、まずは周知・啓発を進めるべき段階でしょう。再製造に相応しいものは、感染リスクを懸念しなくても済む製品に限定すべきであることは自明の理ですから、安全性を最優先にしながら一歩ずつ、着実に進めていくべきでしょう。
再製造SUDの普及は、医療廃棄物の削減にもつながるわけですから、その意義も含めて国民に丁寧に周知、説明したうえで、まず「小さく生んで大きく育てていく」方針を、堅持してもらいたいものです。
いずれにせよ、人口構成の変化、医療の高度化を踏まえると「中福祉中負担」は限界に近づいています。国民も、従来のように手厚い医療保険サービスを望むのであれば、今までと同等以上の負担を甘受しなければなりませんし、それなりの負担にとどめたいのであれば、それなりのサービスで我慢すべきです。政府の方針に不満を述べるだけでなく、そろそろ覚悟をきめなければならない時期に差し掛かっています。
【MEジャーナル 半田 良太】