2025.05.01
賃金上昇と物価高騰に対する医療関係者の悲鳴にも似た声が、日に日に増しています。3月には、日本医師会と6つの病院団体が合同で、厳しい医療機関の経営状況を踏まえて、補助金による機動的な対応や、2026年度診療報酬改定を待たずに対応を求める「期中改定」を求めて声をあげましたが、4月に入ると、永田町を巻き込んだ動きにまで波及しています。
●薬剤師会会長「一揆せざるを得なかった農民と同じ気持ち」
自由民主党の参議院議員有志15人が呼びかけ人となり、300人超の国会議員と日本医師会をはじめとする医療関連団体が「医療・介護・福祉の現場を守る緊急集会」を開催し、期中改定や、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安撤廃などを決議し、石破茂首相に「緊急要望」として申し入れました。緊急集会で壇上に登壇した日本薬剤師会の会長が、「一揆をせざるを得なかった江戸時代の農家と同じような気持ち」と、切々と訴える場面が印象的でした。
●「ある日突然、医療機関がなくなることもある」と危機感露わ
医療関係者による合同声明や、自民党有志が主導する緊急要望の内容を要約すると、「医療機関の経営が著しくひっ迫しており、賃金上昇と物価高騰、さらには日進月歩する医療の技術革新への対応ができていない」という基本認識に立ち、この状況を放置していると、「人手不足に拍車がかかり、そのため患者に適切な医療を提供できなくなる」と訴えています。最終的には、「ある日突然、病院をはじめとした医療機関が地域からなくなってしまう」と警鐘を鳴らしています。
●2年に1回の診療報酬改定を待たずに「期中改定を」
合同声明や緊急要望は、政府に対する具体的な要望として、「機動的な補助金対応」「26年度診療報酬改定の前に期中改定の実施」が必要と位置付けています。さらに、政府予算の基本方針となる、いわゆる骨太の方針で触れられている「『高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という社会保障予算の目安対応の廃止」や、「診療報酬について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」の必要性にも触れるという内容です。
●物価高に負け、制度に見放され、声なく消えていく
緊急要望には、コロナ禍で一般の市民にも知れ渡った「エクモ」など、生命維持装置などを現場で操作する臨床工学技士も賛同しています。
政治活動を行う、日本臨床工学技士連盟は、緊急要望にあわせて「医療の担い手が生活に追われて現場を去っていく」とのペーパーを準備しました。その中で緊急要望の内容に全面的に賛同したうえで、「いのちを支える現場にいる人間が、物価に負けて制度に見放されて、声もなく消えていく。それがいまこの国の医療現場に起きていること」と、ある臨床工学技士のアンケートへの回答を引用して最後の訴えとしました。
●まずは社会変化に即応できる対応を
コラムを読んでいただいている方も、日々の生活で、失われた30年と呼ばれるデフレから、インフレに転換していると実感しているでしょう。さらに実務を通じ、医療機関の経営の厳しさを、筆者以上に身近に感じているでしょう。
合同声明や緊急要望にあるように、確かに、物価高騰、賃金上昇のスピードに、2年に1回の診療報酬改定では対応しきれていない現状があるという訴えは理解できます。すでに、卒後研修を終えた若手医師が、自由診療を展開する美容医療の門を叩く事態が起こっています。起業したり、コンサルタントを筆頭に、民間企業で働いたりする医師も、増加傾向にあります。先ほど紹介した臨床工学技士の声にあるように、物価に負け、制度に見放されて、処遇が十分でない専門職の方も、医療以外の産業に転職することを誰が責められるでしょうか。
確かに保険医療にも、見直し、改革の余地などがまだあると思いますが、まずは社会環境の変化に即応できる、予算措置などの対策を組み合わせた対応をすることで、「ある日突然、医療機関がなくなってしまう」という事態を避けてもらいたいです。
【MEジャーナル 半田 良太】