2025.08.01
「病院の窮状を一般の方々にも知っていただきたい」――。国内の代表的な病院団体のひとつである日本病院会が今年5月末、会長自らが出演し、YouTube上で動画配信を開始しました。
前回の診療報酬改定では、物価高や賃上げなどを吸収しきれないことから、今年度中の財政支援(予算対応)や、2026年度改定での主張反映を目指し、7月までの3カ月間で、計6本の動画配信、つまり1カ月に2本という急ピッチな配信で窮状を訴えています。病院をはじめとする医療系団体が、政府や国会議員などに陳情・要望することはよくあることですが、今回のように一般国民を対象とした情報提供はあまり聞いたことがありません。逆に言うと、それだけ病院経営が厳しさを増しており、世論を喚起したいという意識の表れと言っても過言ではないのでしょう。
●公定価格の「郵便はがき」は約35%値上げなのに……
動画の内容は一般国民を意識して、専門的な分野でありながら、分かりやすい表現を意識し、丁寧な説明を心掛けています。動画タイトルも、キャッチーな見出しが躍り、一般人でも興味・関心を引くように編集しています。
例えば第二弾の動画は、【暴露!ハガキは値上げなのに病院だけが値上げできない理由】病院が危ない!のタイトルで配信しています。昨年10月に郵便はがきが、物価高や人件費の高騰で34.9%値上げされたことを取り上げる一方、同じく公定価格である診療報酬点数は十分に引き上げられていない現状を訴え、問題提起しています。
郵便や医療などは、国民生活に不可欠で、全国どこでも公平に、ほぼ同じ価格・品質で利用できる「ユニバーサルサービス」のはずです。それなのに、一方は大幅な料金引き上げ(原則、土、日曜日の配達中止)を実現したにもかかわらず、もう一方は、世間の物価高・賃上げ水準にも満たない価格引き上げにとどまっているとして、このままでは病院経営が立ち行かず、近い将来、地域から病院が消えると、警鐘を鳴らします。
●国民が医療インフラを考える議論のきっかけに
こうした動画は、一般国民が、インフラとなっている医療や、病院経営の現状を知るうえでも有益だと思います。医療の充実は、国民に便益をもたらします。ただその財源となる税金や保険料は増加しますので、国民の一人一人が、更なる負担を享受しても医療の質を維持、向上させるべきと考えるのか、それとも負担は増やしたくないので、ほどほどの医療で良いと考えるのか。一般国民向けの動画は、そうした議論を喚起する意味でも、重要な問いかけとなるでしょう。
●医療全体の改革や自助努力は不可欠
その一方、病院団体にとどまらず、医療界全体として、効率化や医療機能の集約化を加速化させる必要があるでしょう。また、病院・診療所の在り方・役割分担を整理・明確化する必要もあるかもしれません。自由開業制なども、少子高齢化の中で、改めてその意義を見詰め直してもよいのかもしれません。
病院単体にとどまらず、医療界全体でそうした見直しを同時並行で進めたうえで、初めて病院、医療全体の安定化に向けて、税金や保険料をさらに投入する、投入して欲しいという議論が成り立つのだろうという気もします。以下、日本病院会の一般国民向けYouTube動画となりますので、ご興味があればぜひ!
【MEジャーナル 半田 良太】