2025.10.01
デジタル化の進展で、疾病の診断、治療に用いるプログラム医療機器(SaMD)に対する期待感が高まっています。政府も、SaMDをはじめとしたデジタル医療の分野を成長産業として育成すべく、実用化と国際展開を促すためのパッケージ戦略「DASH for SaMD」を策定しました。その結果、審査のスピードがアップし、日本発の製品も数多く市場投入されるようになりました。
しかし、収益化という面では苦戦続きで、企業側が期待するSaMDに対する保険適用は限定的です。保険適用されたのは、高血圧患者の行動変容を促すデジタルセラピューティクスや、大腸内視鏡の診断を支援するAI(人工知能)、インフルエンザの診断に用いるAI搭載の咽頭内視鏡システムなど一握りで、企業にとって産みの苦しみが続いています。
●時間短縮に貢献するSaMD「それのみでは評価しない」 24年度改定で明確化
厚生労働省は2024年度の診療報酬改定で、SaMDの使用目的などが多様化していることを踏まえ、診療報酬上の評価を明確化しました。
SaMDを使うことで、既存技術よりも「明らかに有効性が向上する場合」には「加算で評価する」としたほか、「より少ない人員で対応が可能になる場合」には、「医療従事者の人員配置基準を緩和する」ことなどを明示しました。
ただ、「医療従事者の労働時間短縮に貢献するSaMD」については、「原則として単なる医療従事者の労働時間短縮効果のみでは加算としての評価は行わない」と整理し、保険での上乗せ評価に「NO」を突き付けました。
●「時短」と「患者メリット」を両立するSaMDは「評価を」 機器業界
国内では少子高齢化の進展で、2040年頃まで医療ニーズが増大していく一方、医療従事者の確保がままならない状況に陥ることが懸念されています。そうした状況下で、「医師の働き方改革」がスタートしており、時間外労働が制限され、臨床現場は従来以上に疲弊困憊し、場合によっては診療制限につながりかねないとも懸念されています。
医療機器業界は、SaMDでこうした状況を改善できると考えており、「医療従事者の労働時間短縮に加え、患者へのメリットが示された場合は上乗せ評価して欲しい」と、2026年度診療報酬改定での“リベンジ”を目論み、厚労省にアピールしています。
●待ち時間短縮とがんの再発率低減
医療機器業界は、上乗せ評価に相応しいと考えるSaMDの一例として、「放射線治療計画支援プログラム」をあげています。放射線治療を行う際、医師がCTなどで撮影した診断画像に、腫瘍や周辺臓器の輪郭を描写する「コンツーリング」という作業をしなければなりません。これは放射線を可能な限り腫瘍のみに照射し、正常組織にダメージを与えないための重要な作業で、入力に数時間かかるケースもあることから、治療開始が遅くなる一因になっているといわれています。医療機器業界は、コンツーリングをAIが支援することで、医師の労働時間が短縮し、それによって患者の治療を早期に開始できることから、上乗せ評価を認めて欲しいと訴えています。ちなみに、頭頸部がんでは、「術後補助放射線治療が6週以上遅れると5年局所再発率が2.89倍になる」などといったデータも存在し、英国NICE(国立医療技術評価機構)でも、「コンツーリング支援AIの使用を推奨するガイダンスを発出している」、などと訴えています。
●グローバル競争が激化する中、従来以上の補助金確保も一考か
こうしたSaMDは大変意義深いものであることは素人の私でも理解できますが、厳しい財政状況下で、それを診療報酬で評価できるかというと、おいそれとはいかないことも、よく分かります。医療機関の経営も厳しさを増しており、臨床現場で使いたくても、診療報酬で評価されていないSaMDの購入を病院の経営サイドが簡単に許すとも思えません。
SaMDは大変画期的で、可能性を秘めている分野ですが、グローバルでの競争も激化しています。保険診療での評価が難しいのであれば、病院におけるSaMDの購入をサポートする補助金を十二分に確保し、従来以上に産業振興に向けたバックアップを、経済産業省を含めた政府全体にお願いしたいものです。
【MEジャーナル 半田 良太】